気軽に恋人やパートナーを探せるマッチングアプリ。日常的に利用者する人も少なくないが、のめり込み過ぎると思わぬ弊害をもたらすこともある。
交際を開始しても、別れたときのことを考えてアプリを退会せず、「保険をかけておきたい」と利用を継続する男性がいる一方、パートナーに求める理想を上げ続けて「納得できる相手に出会えない」と嘆く女性もいる。精神科医の香山リカ氏によると、マッチングアプリでは「他にもっといい人がいるかもれない」という心理が強く働きがちなのだという。
マッチングアプリのメリット・デメリットや利用者の実態を綴った『マッチングアプリ依存症』(内外出版社)より、マッチングアプリの注意点をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第2回。第1回を読む】
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マッチングアプリを使用している人を見て、「注意した方がいい」と思ったことがあります。それは、自分の理想をどんどん上げてしまうということです。
これが「仕事や自分のスキル達成のために理想を高く掲げる」ならいいのでしょうが、「もっといい人がいるはず」と理想を上げ続けてしまう行為は、いい交際にはつながらないといわざるを得ません。
30代後半の女性の話です。これまでアプリで5人の男性とお付き合いしてきたものの、「未だ納得できる相手には出会えていない」と言います。
「付き合っているときも、ついアプリを開いて、『この人の方がいいかも!』と探してしまう自分がいます」と話す彼女は、ハデでも地味でもない、いわゆる常識的ないで立ちの団体職員でした。
その彼女の理想はといえば、「年収は800万以上、身長は175cm以上、甘えたいタイプなので優しくて包容力のある男性」と言います。
「そういう人、全男性の何パーセントだと思いますか?」と思わず聞いてしまいました。
「私はもっと上のレベルの人と付き合えるはず」
実はこの「もっといい人がいるかも」という考え、相手に理想を求めているというより、私はみんなが憧れる理想的な異性と付き合うべき人だ、と自分への理想を高めていると考えられます。
現実には届かない自分の理想を追い求める。これは精神分析の世界では「自我理想の追求」と呼ばれます。自分自身のことや自分が置かれている現実が見えなくなり、
「自分はこうなるべき存在だ」
「本当の自分はこんなものではない、もっとすばらしいはずだ」
などと思い、だんだん自分で自分のハードルを上げてしまうのです。