「1パック158円の卵」から「大阪万博」まで…なぜ“日本人”は行列に並ぶのか? 他人より得をしたい人々が生み出すカオス(中川淳一郎)


 他方、4月11日に山梨県初のコストコとなる南アルプス倉庫店がオープンしました。朝7時の開店を目指し、午前3時半には1000人の行列。驚愕(きょうがく)したのは、入店第1号を目指して栃木県からやってきた女性が、店の前に1週間前から並んでいたということです。

 私のような行列嫌いな人間は、開催・開店初日に万博やコストコで行列に加わる意味が理解できません。

 思い出作りになる、初日に行ったことは自慢できるものである、というのかもしれませんが、これを苦行と感じない人とは徹底的に話が合いそうにない。

 行きたいにしても、大混雑が収まるであろうGW明けに行けばいいではないですか。な〜んてことを言うと「あなたは初日に行くロマンを理解できない唐変木だ」などと反論される。

 行列の中にいると、人々のむき出しの欲望の渦の中にいるような気がして、邪気にヤラれてしまいます。他人より得するために大勢の人が列をなす。そして、いざ開店となるや一斉に走り出し、カオスが生まれる。

 こうした中に身を置きたくないため、私は行列には自発的には並びません。

 この「行列が好きか嫌いか」というのは、付き合う相手を決める実に分かりやすい重要指標です。結婚するかどうか悩んだ時、行列が好きか嫌いかは重要な判断材料になります。

 だって、1人1パック限定で先着100人が特売の卵を買えるという状況下、スーパーが開店する10時より2時間も前に動員させられ、挙げ句は2パックをゲットしようなんて言われたらどうします? 278円の卵が158円で買えるからってそんな行列に並ぶのは非効率じゃない? なんて言うと家庭ではケンカに発展してしまいます。

 行列エピソードで一番好きなのが、フランスのジュエリー店が0.1カラットのダイヤ(5000円相当)を日本で無料配布した際、5000人が1.5キロもの行列を作り大混乱になった件です。中には有給休暇を取って現れた人も。同社の日本法人代表は「ニューヨークでは混乱しなかった。次のシンガポールではもうやらない」とコメントするほど、日本人の民度と振る舞いにあきれていました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2025年5月1・8日号 掲載

新潮社



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