25年前の5月3日から4日にかけて、GW中の日本列島を震撼させた「西鉄バスジャック事件」。佐賀市内に住む17歳の少年が佐賀駅発、福岡市内行きの西鉄高速バスをジャック。「あなたたちが行くのは、天神じゃなく、地獄です」――そう宣言した少年は、乗客3名を切りつけ、うち1人を絶命させた。女性に何度も切り付け、つま先で蹴り、「まだ生きてるのか」と問うなど、警官が突入して逮捕されるまで残虐極まりない犯行を続けた。バスの発車から逮捕までは16時間。
しかし、当時17歳という年齢から、少年法の壁に阻まれ、事件後は少年院に送致。刑に服することはなかった。こうした不条理に世論は沸騰。その年11月、少年法は改正されるなど、日本の少年犯罪の歴史において、エポックメイキングな事件と言える。「週刊新潮」では事件発生当時、バスの乗客5名に取材し、その犯行状況を聞いた。また、少年の周辺に取材し、生い立ちも詳らかにしている。【前編】では、乗客5名の証言による、犯行現場の様子を詳述した。【後編】では、少年の生い立ちと“その後”について詳述する。
【前後編の後編】
(「週刊新潮」2000年5月18日号記事を一部編集しました。文中の年齢、役職等は当時のものです)
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鼻の骨を折った父親
犯人の山田淳一(仮名)の自宅は、佐賀市郊外の住宅街にある。家族は農機具販売会社に勤務する父親とパートで保健婦をしている母親、中3の妹の4人家族。
山田家の知人によれば、
「小さい時から、ちょっと変わった子でしたね。無愛想でこちらから話しかけないと話もしない。それでも、両親はずいぶんと可愛がって、中学の時には、家庭教師までつけてやったりしてたんです。それが、高校に入って、すぐ登校拒否。家に引きこもるようになってから、家庭内暴力が激しくなっていったんです」
息子に殴られたのか、鼻の骨を折った痛々しげな父親の姿を見たこともあると言う。
「趣味はパソコンと日帰りで出掛けるドライブ。父親にせがんで、山口、広島、奈良方面に休みのたびに出掛けていた。今回のバスジャックで本人は“東に行きたかった”と供述しているそうですが、奥屋PAや小谷SAを経由するあのルートを、彼はもともとよく知っていたんです」