公に目にする記者会見の裏で、ときに一歩も譲れぬ駆け引きが繰り広げられる外交の世界。その舞台裏が語られる機会は少ない。50歳の若さで大使に就任し、欧州・アフリカ大陸に知己が多い岡村善文・元経済協力開発機構(OECD)代表部大使に、40年以上に及ぶ外交官生活を振り返ってもらった。
■外務省に事務機器なく…
《2008年から、西アフリカのトーゴ大使を務めた。コートジボワール大使と兼務だった》
トーゴは西アフリカの小国です。初めてトーゴを訪れたとき、首都ロメでさえ道路がほとんど舗装されておらず、照明がなく夜間は真っ暗だった。この国の外務省には、事務用の機器もろくにありませんでした。担当省員は携帯電話を所持しておらず、連絡にも困る始末。要するに、想像以上の貧国だったのです。
40年近く独裁を敷いてきたエヤデマ大統領が05年に死去し、息子が後継に担がれた。世襲です。大勢の子供の中から〝一番、良さそう〟な彼を側近たちが選んだ。それが現職のニャシンベ大統領です。
■「何もしない」優秀さ?
《何度も会ううちに、とても優秀な大統領だ、ということを実感した》
優秀というなら、バリバリと指導力を発揮する大統領だ、と思うかもしれません。違うのです。ニャシンベ大統領は「何もしない」ところが優秀なのです。ほとんど国民の前に出て来ない。演説もほとんどしない。「これをすべき」とか「これが悪い」などと政治的な判断を一切しない。
ニャシンベ大統領はその代わり、優れた人材を世界中から母国に呼び戻しました。まず、国連開発計画(UNDP)から、ウングボ氏を首相に引っ張ってきた。彼は国際農業開発基金(IFAD)総裁を経て、現在、国際労働機関(ILO)事務局長です。国連本部事務局からは、バワラ氏を開発大臣として引き抜いた。他にも、閣僚クラスに何人もそうした人物がいます。
■MBA履修のエリート
《ニャシンベ大統領は、国家運営の全てを彼らに任せた》
彼自身、米ジョージワシントン大でMBAも履修したエリートです。自分の能力に自信がないはずはない。しかし、国家運営の全てを優秀な官僚に任せ、自分は一切、口出しをしない。異色の〝リーダーシップ〟の結果、私が大使を務めたわずか3年間に、トーゴは見違えるように発展しました。