JR東日本は2025年5月8日の社長会見で「カシオペア」ことE26系客車の引退を発表した。E26系は1999年に上野〜札幌間の寝台特急・カシオペア専用車両として誕生した。ステンレス車体、タブルデッカー、全室A寝台2人用個室、食堂車と展望ラウンジ、ミニロビーなどを備えており、まさに「最高級」の寝台特急だった。
【豪華すぎ!】カシオペアの電車らしからぬ「トイレ付き個室」や「フルコース料理」をじっくり見る
2016年に北海道新幹線が開通すると、寝台特急カシオペアは青函トンネルを追い出される形で廃止された。その後は不定期の団体ツアー列車「カシオペア紀行」として走り続けており、カシオペアはE26系の代名詞となっている。
最終運行は2025年6月28日出発、6月30日解散の仙台行き往復ツアーだ。このツアーは2024年から始まった「カシオペア運行開始25周年YEAR」の最終回として販売されており、すでに満席。キャンセル待ちも希望者多数のようで受付停止となっている。
E26系客車は製造から26年。引退するのは鉄道車両としては早い方と言える。最高級のサービスを提供したカシオペアはなぜ誕生し、そして若くして引退するのだろうか。
「北斗星」は個室の多い“豪華列車”だった
1988年3月13日、青函トンネルが開業して本州と北海道の鉄道がつながった。青函連絡船が廃止され、本州と北海道を結ぶ貨物列車は18往復も設定された。旅客列車は青森〜函館間に快速「海峡」が8往復、青森〜札幌間に急行「はまなす」が1往復、盛岡〜函館間で特急「はつかり」2往復で運行を開始した。
そして、上野〜札幌間に新たな寝台特急「北斗星」が誕生した。北斗星は個室が多く、食堂車も連結する“豪華版”だった。
「飛行機より高い」のに人気を博した北斗星・トワイライトエクスプレス
北斗星の個室は、A寝台個室「ロイヤル」、A寝台2人用個室「ツインデラックス」、B寝台個室「ソロ」、B寝台「デュエット」を用意した。在来型の2段ベッド開放型寝台もあり、向かい合わせの4ベッドを4人で使う場合は個室になる「Bコンパート」もあった。
ちなみに同年(1988年)、大阪〜函館間には寝台特急「日本海」が1往復、設定された。1947年から運行していた大阪と青森を結ぶ日本海の2往復のうち、1往復を函館へ延長した形だ。在来型の2段ベッド開放型寝台のみで北斗星より見劣りしたが、翌年にJR西日本は大阪〜札幌間で新たな寝台特急「トワイライトエクスプレス」の運行を開始している。
寝台列車は乗車券、特急券のほかに寝台券が必要だ。2014年時点で、ロイヤルは1万7670円(1名)、ツインデラックスは2万7460円(1名/2名同額)、スイートは5万2440円(1名/2名同額)。デュエットは1万2960円、B寝台ソロと開放寝台は6480円(1名)だった。最も安い開放B寝台でも、上野〜札幌間の総額は2万7980円である。
飛行機よりも時間がかかり、早期割引航空運賃より高い料金。それでもわざわざ乗りたくなる列車――それが北斗星とトワイライトエクスプレスだ。しかし、どちらの客車も1970年代後半の「ブルートレインブーム」に作られた車両を改造したもの。トワイライトエクスプレスが登場した時点で、製造から20年以上が経過していた。
それでも両車両とも、いわば“リフォーム”できれいにしていたから人気が落ちることはなかった。しかし新たな寝台車を望む声も多かった。こうした時代背景の中で、1999年1月、JR東日本は新たな「豪華寝台列車」を発表した。それが寝台特急・カシオペアだ。オール個室の寝台を利用したワンランク上の旅の提案だった。