コンビニより多いといわれる日本の歯科医院の中には、患者の出入りがほとんどないのに存続しているものがある。一体なぜなのか。ノンフィクションライターの甚野博則さんは「彼らの主な収入源は介護施設への訪問歯科だ。わざと施設から遠いところに構えて、高い介護報酬を受け取っている」という――。
【図表】全国の歯科診療所数の推移。減少傾向にはあるが、コンビニより多く存在する
※本稿は、甚野博則『衝撃ルポ 介護大崩壊』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■「訪問歯科」の不正実態
「介護をめぐる不正で、これまであまり注目されてきていない問題もあります。それが、介護施設に出向いて行う訪問歯科です。この訪問歯科の不正は、実態としてかなり多く行われているはずです」
そう語るのは中部地方で働く歯科衛生士の杉山博子さん(仮名)だ。
訪問歯科をめぐる不正で最近注目されたのが、2024年10月に兵庫県西宮市の医療法人社団の歯科医院が介護報酬を不正に受け取っていたとの報道だ。この医院が運営する介護事業所は、通院が困難な要介護者や要支援者の自宅を訪問し、歯磨き指導や口腔内の健康状態を助言する介護保険サービスを行っていた。
■3600万円の介護報酬を不正に受給
介護保険法では、歯科医師による訪問は月に2回、歯科衛生士は月に4回までと規定されているが、市の調査によると、2022年9月から24年3月にかけて、実際には歯科医師が訪問していないにもかかわらず、歯科衛生士の訪問回数に合わせて月2回の指導がされたかのように虚偽の報告が行われていたのである。
不正請求は約9600件にのぼり、総額で約3600万円の介護報酬が不正に受給されていたという。こうした事態に同医療法人は、ホームページで謝罪文を掲載。訪問診療における介護報酬の請求に関して誤った認識を持っていたことが不正受給の原因であると釈明し、市の監査によりその事実が明らかになったと説明している。
だが、こうした歯科医院による不正は水面下で多く行われている実態があると杉山さんは言う。