PFASは、PFOA、PFOSなど数千種類に及ぶ人工的に合成された有機フッ素化合物の総称であり、水や油をはじくという有用な特性を持つため、工業用や消費者用製品に利用されてきた。しかし、その化学的安定性ゆえに環境中でほとんど分解されないため、地球規模で分布し、河川、湖沼、地下水、土壌、さらには北極圏の野生生物やほとんどの人々の血液中からも検出されている。
【画像】【衝撃】全米でのPFAS汚染の訴訟件数は1万件超!3M社、デュポン社だけじゃない…それでも日本で健康被害の訴訟が起こる可能性が低い理由
国土交通省と環境省の調査によると、2024年度上期時点で国の暫定目標値であるPFOSとPFOAの合計で50ナノグラムパーリットル(ng/L)を超過した水道水はないが、環境省による2023年度の河川や地下水の調査では、22都府県の242地点で暫定目標値を超過した。
世界的に見ても、PFAS汚染は深刻な問題であり、特にPFAS製造・使用工場、軍事基地、空港、消防訓練施設、廃棄物処理場などが「ホットスポット」となっている。米国、欧州、オーストラリアなどで高濃度汚染が報告されているが、検査体制の差もあり、汚染はより広範に及んでいる可能性がある。
PFASの健康影響について、筆者はすでに「高まる不安、広がる誤解 化学物質PFAS報道の裏側」と「【PFASの健康リスクは小さい】誤解続く環境汚染と健康リスクの違い―最新の科学と報道の乖離」の2回にわたって解説したが 、改めて研究の状況、規制の状況、そして米国でのPFAS訴訟の状況と、それらの関係について解説する。
PFASの健康影響とは
PFASの健康影響については、動物実験と、ヒトを対象とした疫学研究の両面から調査が進められている。ラット、マウスなどを用いた動物実験では、PFASの投与により、肝臓重量増加、肝細胞肥大、免疫抑制、生殖・胎児死亡率増加、出生時体重低下、成長抑制など発生への影響、コレステロール値変動、甲状腺ホルモンへの影響、腎臓への影響、肝臓、精巣、膵臓などでの発がん性が報告されている。ただし、投与量が高濃度であることや種差から、動物での結果がヒトでも起こるとは限らない。
疫学研究としては、米国ウェストバージニア州のデュポン社工場周辺のPFOA汚染地域住民約6万9000人を対象として、05年から6年にかけて行われた、C8健康プロジェクトがある。その結果は、PFOA曝露と高コレステロール血症、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患、精巣がん、腎臓がん、妊娠高血圧症の6つの疾病との間に確率的関連があると結論付けている。
これは相関関係がある可能性が高いことを示すもので、その後の科学・規制・訴訟に大きな影響を与えた。しかしこれは因果関係の証明ではない。