米中貿易戦争を90日間停止することを発表したトランプだが、戦略的思考に基づいていない以上、喜ぶべきではないのかも
アメリカの通商政策はまるで週末のガレージセールのようだ。価格は時間ごとに変動し、ルールは場当たり的に作られる。だがガレージセールと違うのは、アメリカの通商政策は、誰が仕切っているのかすら誰にも分かっていない点だ。
5月12日にアメリカと中国が90日間の関税戦争停止で合意したというニュースは、一見するとドナルド・トランプ米大統領の進歩のように見えるかもしれない。しかし、その外交的演出に騙されてはいけない。
今回の合意は、経済政策の一環でもなければ、戦略的判断でもない。リーダーシップを装ったただの場当たり的な演出であり、その代償はアメリカの製造業者、消費者、そして輸入業者が支払わされる。
発表された合意内容を詳しく見てみよう。アメリカと中国は、関税戦争の一時的な停戦に合意した。両国の貿易摩擦は幼児が癇癪を起こすときよりも急速に激化していたが、今後90日間、互いに課していた報復関税を緩和することになる。
アメリカは中国からの輸入品に課していた度肝を抜くような145%の関税を30%に引き下げる(依然として破壊的に高水準だが)。一方の中国は、アメリカからの輸入品に対する報復関税を125%から10%に引き下げる。
では、90日後にはどうなるのか? それは誰にも分からない。
さらなる混乱がもたらされるかもしれないし、新たにX(旧ツイッター)や「真実」という名のSNS(トゥルース・ソーシャル)に何らかの投稿がなされるかもしれない。あるいは、新聞の見出しを飾るような記者会見が行われるかもしれない。誰が予測しても同じようなものだ。
関税戦争一時停戦の合意はトランプ流統治スタイルによる失策?
今回の合意を美化するのはやめたほうがいい。戦略と呼べるような代物ではないからだ。最初から勝ち目がなかった勝負だとようやく気付き、慌ててリセットボタンを押しただけだ。
そしてこれは、国家運営の失敗という大きな問題の1つの典型でもある。切りかかり、燃やし、脅して、そのツケが現れ始めたら後退するという、トランプ流統治スタイルをそのまま体現している。
関税は地政学リスクの盤上で自由に動かせるおもちゃの兵隊ではない。雇用、物価、長期的な計画に影響を及ぼす現実的な経済的手段だ。
にもかかわらず、トランプ大統領の下で、関税政策は政治的な見世物になってしまった。グローバルサプライチェーンや国際外交の仕組みを理解しないままに、中国に強硬な姿勢を見せるための手段として振り回している。
その結果、企業が計画を立てられず、投資家が見通しを立てられず、消費者が文字通り代償を支払わされるという意味不明な環境が生まれた。
中国製品に対する145%もの関税を支払わされてきたアメリカの輸入業者に尋ねてみればいい。トランプが引き起こした経済的混乱は絵空事ではなく、現実の話だ。
巨額の支払いが発生し、利益は圧迫され、事業の根幹を揺るがす決断――従業員を解雇するのか、商品価格を引き上げるのか、それとも生産を海外に移すのか――を次々と迫られている。
そして最後には、この巨額関税の下でビジネスを継続できるのかという問いに突き当たっている。多くの輸入業者にとって、その答えは「ノー」だ。