支持率27.6%(ANN調査)と低迷にあえぐ石破政権のつまずきの一つになったのが、高額療養費制度見直しを巡る右往左往ぶりだった。最終的に見直し撤回という事態に追い込まれ、政策実行力のなさや政治哲学の欠如を露呈した。
【写真】高額化するがん治療薬、どのくらい適切に使われているのか?
高額療養費制度見直し論の根底にあるのが、巨額化した医療費の存在だ。令和5(2022)年度は47兆3000億円と30年前の平成4(1992)年度23兆4784億円の2倍に膨れ上がり、過去最高となった。その原因の一つが「がん治療薬」の高額化である。「がん患者への1回の投与で50万円を超える薬も少なくない」と話すのは、膀胱がんステージ4の患者として1年以上、抗がん剤治療などを続けているジャーナリストの山田稔氏だ。同氏が自らの体験から医療費高騰の実態を検証する。
■ がん治療薬の費用が従来の「10〜50倍」と高額化
高齢化社会の進行に伴い、医療費は右肩上がりに増え続けてきた。
昭和60(1985)年度に16兆159億円、国民1人当たり13万2000円だった医療費は、平成11(1999)年度には30兆7019億円と初めて30兆円を超え、国民1人当たりも24万2000円となった。
そして時代は令和になり、5(2023)年度は概算で47兆3000億円、国民1人当たり38万円と過去最高に達したのである。対GDP比は4年度段階で8.24%と、30年前の平成4(1992)年度の4.86%を大きく上回る水準だ。
ここまで医療費が膨れ上がれば削減に向けた議論が進められるのは当然。高額療養費制度の見直し論はその一環として浮上したものだが、厚生労働省の議論の進め方が拙速で、しかも患者団体からのヒアリングを行わないという致命的なミスもあり撤回に追い込まれた。
医療費削減を巡っては高額療養費の見直しだけでなく、さまざまな改革が必要である。その一つに高額治療薬の問題がある。代表的な例が、がん治療薬だ。
これまで高額治療薬の実態については明らかにされてこなかったが、2024年、がんの専門医らでつくる「JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)」が、大腸がんや肺がんなど17種類のがんの薬剤費について実態調査を行った。
17種のがん患者1万5564人の薬剤費を調べたところ、59%の患者が1カ月当たり50万円以上の治療を受け、17%の患者は100万円以上の治療を受けていた。また、10年前と比べると現在の標準的な治療の薬剤費は10〜50倍と高くなっていることが明らかになった。