「(犠牲者)1人につき1年として懲役159年の刑でも足りないのに、禁固だとは。(犠牲者は)救えたはずじゃないですか。なのに、なぜみんなあの日、示し合わせたかのように出て来なかったんですか。ただ道を歩いていただけなのに、どうして死体で戻って来なければならないんですか。人が出動しなかったから、警察があの場所で最後まで責任を果たさなかったから起きたんだと思います。無罪はありえません」
19日午後、ソウル高裁312号には、梨泰院(イテウォン)雑踏惨事で犠牲となった俳優のイ・ジハンさんの母親、チョ・ミウンさんの泣き声混じりの絶叫が響いた。2022年10月29日に起きた梨泰院惨事で、ずさんな対応により事故を拡大させた疑いが持たれているイ・イムジェ元ソウル龍山(ヨンサン)警察署長の控訴審第1回公判の法廷での出来事だ。4時間にわたった公判の終盤に遺族代表に発言権が与えられた際、チョさんは「惨事の防止は正当な法的判決のみ」だと述べて憤りを表した。
ソウル高裁刑事13部(ペク・カンジン裁判長)は19日午後、業務上過失致死傷の疑いで起訴されたイ元署長、龍山署112治安総合状況室のソン・ビョンジュ元室長、龍山署112状況室のP元状況第3チーム長ら、龍山署の関係者の控訴審の初公判をおこなった。
イ元署長は、ハロウィーンフェスティバルの開催期間中には警察力を投じるべきだとする報告を受けていたにもかかわらず事前措置を取らず、惨事当日にも現場到着が遅れるなど、指揮がずざんだったなどの疑い(業務上過失致死傷、虚偽公文書作成)が持たれている。現場の総責任者だったイ元署長は惨事当日、車で現場に向かおうとして梨泰院周辺で55分浪費するなど、1時間30分間にわたって何の指揮もとらずにいた。また、虚偽の現場到着時刻などが記載された状況報告書を承認した疑いも持たれている。
一審は昨年9月30日、イ元署長の業務上過失致死傷を有罪と判断し、禁固3年の実刑を言い渡した。判決は「被告人はソウル龍山区の治安を担う署長として、総合的で実効的な対策を立て、対応する責任があったにもかかわらず、安易な認識の下で(対応を)疎かにし、残酷な結果を生んだ」と述べた。ただし、虚偽公文書作成および行使については無罪と判断した。イ元署長は控訴審で、容疑を全面的に否認しつつ、「被告人に個別の刑事責任を問えるのかは疑問」だと主張している。
この日の初公判では、梨泰院惨事当時、梨泰院派出所に勤務していた2人の警察官に対する証人尋問が行われた。最初の証人として証言台に立った警察官のL氏は、事故時に最初に出動した警察官の1人で、「(普段は現場で)圧死事故、安全が損なわれる事故が起きるとは思っていなかった」と証言した。ただし、「群衆管理権限を行使できたのではないか」と検察に問われると、「(事故の数日前にあった)地球村祭りのように、道路をすべて規制していたら、このようなことは起きなかっただろう」とし、「そもそも対策がきちんと立てられていなかったため、現場で(管理を)すべて行うことは難しかったと思う」と語った。梨泰院派出所が惨事当日の午後6時34分ごろに最初の通報を受けた際に出動しなかったにもかかわらず、現場に出動したかのように虚偽の報告書を作成したことも、争点となった。当時、梨泰院派出所に勤務していた警察官のI氏は、「虚偽記載のある通報事件の表が作成され、残りの通報(10件)についても出動したかどうか不明な状態で派出所が終結申請したため上に提出され、112状況室が終結した。これで合っているか」と問われ、「はい」と答えた。
この日の第1回公判を見守ったチョさんは、「(イ元署長は)一審では判決を認めると言っていたのに、控訴したら無罪を主張している。これがどうして無罪だとみなせるのか」として、「1人も死なずに済んだばずで、すべての犠牲者を死なせないための時間は十分にあったと思う。控訴審で刑量が減らされるではないかと怖い」と述べた。そして「刑を増やし、万が一の次の惨事においても(市民を)守れなかった公務員は必ず処罰することで、惨事を防止すべきだと考える」とし、「そうすることではじめて、その現場で誰もが自分の責任を大切に考え、国民が通報した際にすぐに駆けつけてどんな事件が起きているのか詳しく調べ、その場から離れなくなるだろう」と付け加えた。チョさんは「電話機が足りなかったわけでもなく、CCTV(防犯カメラ)が足りなかったからあのようなことが起きたわけではない」とし、「人が出動せず、警察があの場で最後まで責任を果たさなかったからこそ起きたことだと思う」と言いながら号泣した。チョさんは公判終了後も法廷を離れられず、座ってしばらく涙を流しており、すべての被告人が去ってようやく最後に法廷を出た。
チャン・ヒョヌン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )