経団連が選択的夫婦別姓制度導入を求める提言を改訂し、従来根拠にしてきた「旧姓の通称使用によるトラブルの事例」に修正を加えたことが20日、分かった。トラブル事例は実際には多くが解消されており、自民党の部会でも解決済みだと指摘されていた。経団連の十倉雅和会長は同日の定例記者会見で「指摘がマスコミや自民党の先生方からあったので直した」と述べた。
トラブル事例は、経団連が昨年6月に公表した提言「選択肢のある社会の実現を目指して」の別紙として添付。事例11項目の6カ所に注記号があり、原文を削除せず、それぞれに説明を追記した。提言の改訂は5月7日付。経団連のホームページで閲覧できる。
例えば、「多くの金融機関では、ビジネスネームで口座を作ることや、クレジットカードを作ることができない」と指摘した項目には、「約7割の銀行で通称での口座利用が可能だが、証券会社や生損保の口座など、その他金融機関の多くで、不正取引防止やシステム対応のコスト面などから旧姓の口座開設はできない」といった具合に内容を注釈として加えた。
経団連が制度導入の理由に挙げてきたトラブル事例だが、会見で十倉氏は「経団連の提言は便利・不便の議論が本質ではない。アイデンティティーの問題だ」と改めて強調した。
経団連の提言を機に国内で議論が活発化したものの、今回の提言改訂に当たっては記者会見などでの説明はなかった。この点について、十倉氏は「これからも大きく変わったところがあれば注釈で(対応)していく。そのために記者会見を開くようなことは考えていない」と説明した。
十倉氏は29日の定時総会で退任する。これまで約30年ぶりとなる高水準の賃上げの実現や、大阪・関西万博の開催などに尽力してきた。20日は経団連会長として最後の会見で、十倉氏は「反省はあるが、一定の成果を残すことができた」と述べた。経団連会長の任期は原則2期4年。後任の第16代会長には筒井義信副会長(日本生命保険前会長)が就任する予定。(佐藤克史)