トランプ米大統領の大学への攻撃が大きな問題となっている。ハーバード大学など、米国が世界に誇る有名大学を標的にして巨額の補助金の給付停止や留学生のビザ取り消しなどで大学や学生に深刻な打撃を与えていたが、5月22日には、国土安全保障省がハーバード大学の留学生受け入れ資格を取り消すと発表した。同省は、留学生は他校に転学しなければ在留資格を失うとしている。CNNによれば、現在の留学生は9970人で、2024年度の入学者の27.2%が留学生だった。転学しろと言っても、ハーバードのようにレベルの高い大学はごく少数だ。受け入れ能力には限界がある。これだけ多くの若者の人生を弄ぶトランプ政権は完全に常軌を逸している。
トランプ大統領は、大学攻撃の理由として、これらの大学が学生による反ユダヤ主義の運動を適切に取り締まらなかったことや行き過ぎたDEI(多様性、公平性、包括性を重視する考え方)政策で白人の学生に対する逆差別を行ったことなどを挙げている。逆差別だと言いながら、実質的には、非白人や女性に対する差別主義の時代に戻ろうとしているようだ。
こうした考え方は、トランプ大統領の岩盤支持層の人々に共有される反エリート主義、反知性主義、反WOKE主義(WOKEは、上から目線で反差別主義などの価値観を押しつける意識高い系というような意味)と密接に結びついている。いわばトランプ主義の思想的支柱と言っても良い。
しかし、トランプ大統領の大学・留学生攻撃は、非常に深刻なダメージを米国に与えることは必至だ。
すでに、多くの研究者が米国を去る動きを見せ、EUの大学などが、そうした研究者の受け入れに動いている。今後は、海外の優秀な留学生も減少することが予想される。これまで海外から流入した優秀な頭脳が米国の発展を支えてきたことは明白な事実だが、今の政策が続けば、米国の知的水準が下がり、イノベーションが停滞するのは確実だ。
さらに、この政策の負の効果は、経済的損失にとどまらない。
2月4日配信の本コラム「トランプ大統領就任後にNYに来て感じたこと 極右の犯罪者は解放され、性的マイノリティが排除される『アメリカではない国』になった」で指摘したとおり、現在、米国の大学では、DEIに関わる研究がほとんどストップしている。研究内容に思想的な制約が加わったのだ。「トランプ大統領がやっていることは大変な思想統制につながっていく」と書いたが、その懸念は今も高まるばかりだ。