「生成AI『コピペ』対策が面白い」としてXで話題になった授業がある。慶応義塾大学総合政策学部の1年生を対象にした必修科目の「総合政策学」だ。担当教員が配布資料に授業の中身に無関係の『文明論之概略』の文言を白色フォントなど目視では確認できない形で挿入。学生が配布資料を生成AIに学習させると、授業に無関係でトンチンカンなレポートを書いてくる、という仕掛けを施したと見られる。生成AIの活用に関しては高等教育界で賛否が分かれている。先端技術の教育利用が専門の京都大学・飯吉透教授はこの問題をどのように捉えているのだろうか。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
■ レポートが「AIで書かれたかどうか」を判断するのは不可能
──慶応大の生成AI対策が話題になりました。生成AIの学習・出力の能力には驚かされますが、高等教育で悪用されると、授業を聞いていなくともレポートを一瞬で作成できてしまうというリスクもあります。飯吉さんは今回の慶応大のケースをどのように評価していますか。
飯吉透・京都大学教授(以下、敬称略):これまで専守防衛に徹していた教員が積極的に「攻め」に来た、という点で面白かったですね。
正直に言って、現在の生成AIの能力や今後の急速な進展を考えると、教員が「これはAIが書いたのか、人間が書いたのか」を判別することは事実上ほぼ不可能です。
実際、イギリスのレディング大学で行われた研究*
では、教授陣がChatGPT-4で書かれたレポート型提出物(200字の一問一答・1500字のエッセイ形式)の94%を「人間の学生が書いたもの」と誤認したことが明らかになっています。 *A real-world test of artificial intelligence infiltration of a university examinations system: A “Turing Test” case study
学生の側も「生成AIに書かせたレポートは、あまりにも論理的で『AI過ぎる』から、『人間らしく、多少の誤字脱字や論理の綻びがある文章を書いて』」「80%くらいの理解度で書いて」などと生成AIに頼むこともできますから、教員に勝ち目はないでしょう。
そうした中で慶応大では、人間の眼では認識できないが生成AIは見落とさない「白色背景の資料に白字のテキストで誤情報等」を入れ込み、コピペレポートを作成した学生を炙り出しました。レポートを読む教授の「生成AIを使ったかどうか最終的に判断するのは難しいから、生成AIが使われる段階で間違った情報を学習させよう」という、おとり捜査的な攻めの姿勢と言えるでしょう。
──実際、かなりの数の大学生が生成AIを活用してレポートを書いているのですか?