独・メルツ首相、ウクライナに長射程ミサイル供与せず 前向き一転


【図解】侵攻を巡る米・露・ウクライナの思惑

 会談後の会見でメルツ氏は「ウクライナが自国防衛のために、あらゆる可能性を持てるようにしたい」と述べ、長射程兵器を共同生産する意向を表明した。

 独国防省によると、両国の国防相は、ドイツがウクライナの兵器生産に投資する覚書に署名した。弾薬の供給なども含めた支援額は50億ユーロ(約8170億円)。ウクライナ側の発表では、投資の対象は主にドローン生産とされている。

 射程約500キロのタウルスは、ウクライナが以前から供与を求めてきたが、ショルツ前首相はロシアを過度に刺激することを懸念し、拒否してきた経緯がある。5月に就任したメルツ氏は、野党時代から供与に前向きな発言をしており、ウクライナ側の期待は高まっていた。

 メルツ氏は会見で供与を見送った理由には触れなかったが、28日夜、公共放送ZDFに対し、タウルスを実際に運用するには兵士の訓練に数カ月を要するため「今日役に立つわけではない」と説明。将来的な供与は「可能だ」とも強調した。

 ゼレンスキー氏は支援への感謝を示したうえで、「長射程兵器はドイツ製か他国製かに関わらず必要だ」と述べ、今後もタウルスの供与に期待していることを示唆した。

 会談を前にメルツ氏は26日、「我々が供与する武器に射程の制限はない」とX(ツイッター)に投稿し、ロシア領内への攻撃も容認する姿勢を示した。タウルス供与の前触れではとの臆測も広がったが、翌日には「この数カ月間に起きた出来事を述べたに過ぎない」と釈明。米国などが、自国が供与した兵器でロシア領への攻撃を容認したことに言及したものであり、自らの方針を示したわけではないと軌道修正を図った。

 これに関して、メルツ氏と同じ中道右派政党「キリスト教民主同盟」のキーゼウェター議員は27日、「連立政権内で意見が一致していない」などとして、タウルス供与の「兆候はない」と指摘。臆測を招くような発言は慎むべきだとメルツ氏を批判した。

 今回メルツ氏が供与を見送った背景には、連立を組む中道左派・社会民主党との間で議論がまとまらなかった可能性もある。【ベルリン五十嵐朋子】



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