5月28日、神奈川県警は元交際相手の死体遺棄容疑で逮捕していた男をストーカー規制法違反の疑いで再逮捕した。警察が今回、ストーカー規制法を被害者保護のために有効に機能させるのに失敗したことは明らかである。
【写真を見る】桶川ストーカー殺人事件の犯人が“溺死体”となって見つかった場所
このいわゆる「川崎ストーカー事件」はストーカー事案の扱いの難しさを改めて認識するきっかけとなった。現在、調査が行われているが、被害者と警察のコミュニケーションが十全ではなかったことは明らかだろう。こうした構図は過去にもたびたび見られたものだ。
1999年10月に起きた桶川ストーカー殺人事件。被害者の訴えを埼玉県警は無視し続けたのみならず、事件後には被害者に非があるかのような情報を記者クラブに流した。
さらに自らの失態を隠蔽(いんぺい)するための嘘までついていたのだ――事件を取材し、やる気のなかった警察よりも早くに犯人グループの特定、撮影に成功した写真週刊誌「FOCUS」の記者(当時)・清水潔氏の著書『騙されてたまるか 調査報道の裏側』をもとに、そのあまりに酷い実態を見てみよう(以下、同書をもとに再構成しました)
(前後編記事の後編:事件前後の警察の酷い対応については前編【「これは事件にならないよ」「男と女の問題だから警察は立ち入れない」 最悪のストーカー殺人を引き起こした警察の信じられない対応】に詳しい)
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警察による被害者バッシング
白昼、駅前で刺殺された美人女子大生──。
事件から1週間、そして10日とマスコミの注目が衰えることはなかった。
遅々として進まない捜査をよそに、報道合戦がエスカレートしていく。ところがいずれも私の記事とは違って、まるで被害者の猪野(いの)詩織さんに非があるかのような内容の報道ばかりだった。〈被害者は夜の店で働いていた〉〈ブランド依存だった〉といった扇情的な文句が、夕刊紙やスポーツ紙、週刊誌に躍る。テレビの情報番組ではコメンテーターが「そんなお店にいたなら彼女も悪いですね」と言い放つ。まるで被害者に非があるかのような報道に私は苛立った。なぜこんなことになるのか。「FOCUS」の編集長からも、「何でウチはこういう記事を書かないんだい……」と指摘される始末。
それでも私は自分の取材を信じ、独自路線の記事を書き続けた。