国民生活を支える年金の大幅カットが進められようとしている。自民党内で大揉めの末に提出された年金制度改革法案が、修正を経て自民・公明・立憲民主の3党で合意したが、新聞・テレビが報じない詳細を検証していくと、元サラリーマン世帯を狙い撃ちにした「大改悪」であることが見えてきた──。
メディアでは、当初は基礎年金底上げ案を削除した法案を提出し、その後、野党の反対を受けて法案の修正を進めた点に話題が集中したが、真に注目すべき点は他にある。年金制度に詳しい“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「法案から基礎年金底上げ策が削られていたことはもちろん大きな問題ですが、今回の法案には元サラリーマン世帯への大幅な給付カットや会社員への保険料負担増が盛り込まれていることを見逃してはなりません」
賃上げが進んでもそれ以上に保険料が天引きされる
今回、与党が提出した年金改革法案では、元サラリーマン世帯への大幅な給付カットが行われる一方、現役サラリーマンの年金保険料は上がる。
厚生年金保険料の算定の基準になる標準報酬月額(4~6月に受けた報酬の平均月額)の上限が65万円から75万円へと段階的に引き上げられるためだ。
この改革で保険料値上げの対象になるのは年収700万円以上の中堅サラリーマン(全体の約16%)となる。
「現行制度では、収入がどれだけ多くても標準報酬月額は65万円が上限で、年金保険料(労使合計)が月額11万8950円より多くなることはなかった。標準報酬月額の上限が75万円となり、それが適用される人の場合、どのような標準報酬月額の刻み方になるかによるところもありますが、月額13万7250円へと引き上げられることが想定されます。毎月約2万円も保険料が増え、年21万9600円もの負担増になる。本人負担分だけで見ても、給料の手取りが年約11万円減るということです」(北村氏・以下同)
国は“保険料が上がれば将来の年金受給額も増える”と喧伝するが、増額は微々たるものだ。
「保険料で年間の手取りが約11万円減らされた人が、その見返りとして得られる将来の年金増額は年約6600円に過ぎません。月550円しか増えないのです」(北村氏)
これでは割に合うはずがない。
高所得者にしか関係しない話に感じるかもしれないが、日本経済はインフレに転じ、物価上昇に追いつかない水準ではあるが、賃上げも進んでいる。その流れが進めば、現在の中間層も遠くない将来に、額面上は現在の高所得者の水準の給与を手にすることになり得る。それを見越した保険料負担増の改悪とも言える。北村氏が語る。
「政府は企業に賃上げを求めているが、賃上げが進んだ結果、保険料値上げの対象に入ってしまえばたっぷり保険料を天引きされることになる。また、厚生年金保険料は会社が半分負担するため、社員だけでなく、企業にとっても負担が大きくなります」
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※週刊ポスト2025年6月6・13日号