どこででも働け、生活できる時代に人はなぜ上京するのか。元号が令和になってから上京した人にその理由を尋ねるシリーズ「令和の上京」。第5回は、年収1000万円を目標にお笑い芸人を志す坂井俊太郎さん(22)――。(取材・構成=ノンフィクションライター・山川徹)
(取材日:2025年3月3日)
■池袋で見た「なぜか忘れられない風景」
確か……あれは池袋だったと思います。
上京する1年前だから2023年3月。21歳のときに、長野から夜行バスに乗って友だちと東京に遊びに来たんです。
東京は小学校の修学旅行以来でした。ほぼほぼはじめての東京に遊びに来たのは、地元には刺激がなさ過ぎて、新しいものを見たかったからです。思いつきの上京だったのでホテルの予約をとらずに、ネットカフェやカラオケボックスで寝ながら、新宿、秋葉原、浅草、池袋あたりを見て回りました。
池袋では、人の数に圧倒されました。人が多すぎて歩きにくくてイヤだな、とふと上を見上げたんです。
そしたら、でっかいスクリーンがあって。誰かは覚えていないんですが、お笑い芸人が映っていました。そのときいいなと感じたんです。こっちは人混みのなかで、下を向いて歩いているわけじゃないですか。それなのに、あの芸人は、上から、みんなを、俺たちを、見下ろすようにしている……。
俺が意識を取り戻したのは、それからです。
それまでは、死んだように生きていました。このまま地元にいたら、退化して、死ぬだけなのだろう。漠然とですけど、そんな諦めがあった気がします。でも、池袋で見た芸人を見て考えました。地元にいる限り、何も変わらない。もう東京に出よう。いや、東京に出るしかない、と。
振り返ると、上京して芸人を目指すきっかけが池袋だったんです。
■のどかすぎて若者には刺激がない
俺の地元は長野県松本市です。
のどかで住みやすい町なんですよ。俺も、キホン、好きですよ、地元。のどかだから、老後にゆっくり過ごすにはとてもいい町だとは思います。人間関係もずっと一緒で楽ですし。初対面の人と会っても、友だちの友だちや、後輩の元カノみたいな感じで、みんなつながっていますからね。逆に言えば、毎日に変化がない。若者にとって刺激がなさ過ぎる。
俺は、地元のこと、若者の墓場だと思ってて――。