ロシアの航空関係者や飛行機の乗客にとって、悪夢のような状況が続いている。5月にはウクライナ軍の無人機攻撃で、モスクワの主要空港が連日のように一時閉鎖するなど、大混乱に陥っているからだ。この相次ぐ“空の封鎖”からは、ウクライナ軍の新たな狙いも透けて見える。
■華々しい戦勝記念日の裏で…モスクワの空港は麻痺
5月9日、ロシアは第2次世界大戦での戦勝80年の記念日を大々的に祝った。モスクワの軍事パレードには中国の習近平国家主席らも駆けつけ、プーチン大統領は国際社会での存在感をアピールした形だ。
しかしその直前、モスクワにある複数の主要空港は、未曽有の大混乱に陥っていた。ウクライナ軍の無人機攻撃が連日続き、空港の一時閉鎖が相次いだのだ。ロシア旅行業者協会によると、5月6日から7日にかけ少なくとも350の便、6万人以上が影響を受けたという。攻撃は連日続き、飛行機に数時間、閉じ込められたり、空港泊を余儀なくされたりする乗客が続出した。
■ウクライナ軍の“空の攻勢”は続く
ウクライナ軍の無人機攻撃は、戦勝記念日という節目のタイミングを狙ったものとみられた。しかし、5月下旬から再びロシア領空での無人機による攻勢を強めている。ロシア軍も過去最大規模の空襲をウクライナに対して仕掛けていて、攻撃の応酬が続いている。
ロシアの独立系メディアによると、5月27日から28日にかけ、ロシア領空では296機のウクライナ軍の無人機が迎撃された。モスクワの主要空港は一時閉鎖し、100便以上が遅延したという。
5月20日から27日までの1週間で1400機以上が迎撃されていて、ロシア国防省は無人機攻撃の激化に警戒感を強めている。こうした中、モスクワの空港の一時閉鎖は、もはや日常茶飯事といった状況になりつつある。
■ウクライナ軍の狙いは…戦争が“自分事”に
独立系メディアは、最近のウクライナ軍の無人機攻撃は、主に軍事関連の生産施設を狙ったものだと伝えている。ロシア側の無人機生産工場への攻撃も試みている。またロシアの防空システムを常に警戒態勢に追い込むことで負荷をかけ、攻撃の有効性を高める狙いもある。
一方で、空港の麻痺(まひ)で混乱を引き起こし、普段は戦争を意識しないロシア国民に“心理的圧力”を加える狙いもあるとみられる。効果は限定的かもしれないが、少なくともこの5月の空港の混乱ぶりは、大勢のロシア国民に戦争を“自分事”と感じさせたはずだ。ウクライナメディアは、次のような軍の関係者の話を伝えている。
「ロシアの国土は広く、航空路線は必要不可欠だ。空港の混乱は、社会不安につながる」
「ロシア国民は戦争の代償を払う必要がある」