日本郵便(JP)において、トラックやワンボックス車を運転するドライバーへの法定点呼が長年にわたり適切に行われていなかった問題が深刻化している。これを受け、国土交通省は月内にも、JPが持つ自動車貨物運送事業の許可を取り消す方針を固めた。これは貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の中でも最も重い措置であり、大手事業者への許可取り消しは極めて異例の事態だ。
日本郵便のロゴと本社ビル
この問題は今年1月、兵庫県内の郵便局で、乗務前後の酒気帯びや疲労・睡眠状況の確認といった重要な点呼が数年にわたり実施されていなかったことが判明し発覚した。JPは全国の郵便局を対象に内部調査を実施、調査対象の75%にあたる2391局で何らかの不備を確認し、4月に総務省と国交省へ報告公表した。
国交省はこれを受け4月25日からJPへの特別監査に着手。高輪郵便局(東京都港区)など全国各地の郵便局で立ち入り検査を進めてきた。これらの検査では、トラックやワンボックス車等の運転手に対する点呼未実施や点呼記録の改ざんといった悪質な違反が多数確認されたという。
関係者によると、特に深刻なのが違反点数の累積だ。関東運輸局の管内だけでも、累積違反点数が事業許可の取り消し基準(81点)を既に超えていることが判明している。ある国交省関係者は、こうしたJPの対応について「大手事業者とは思えない悪質さだ」と厳しく指摘している。
日本郵便の保有車両数と国土交通省による特別監査の状況を示す表
事業許可が取り消されれば、JPは全国で約2500台保有するトラックやワンボックス車による貨物運送事業を、取り消し後5年間は行うことができなくなる。これは年間10億個以上を扱う宅配便「ゆうパック」(2023年度実績、市場占有率2割)や、他の郵便事業にも大きな影響を与えることは避けられない。JPは、今後の対応として、子会社である「日本郵便輸送」や外部の協力会社への業務委託を増やすなどの措置を講じるものとみられる。
なお、貨物運送事業法における許可制の対象はトラックやワンボックス車等であり、郵便配達で多用される軽トラック、軽バン(届け出制)や原動機付き自転車(対象外)は今回の許可取り消しの直接的な影響対象外となる。
国交省は今後、今月5日にも行った処分案の公示を踏まえ、JP側の意見を聞く「聴聞」を実施する。その上で最終的に許可を取り消す方針だ。一つの地方運輸局管内での許可取り消しが確定すれば、その効力は他の運輸局管内も含め、JP全体に及ぶことになる。
日本郵政グループ全体にとって、安全運行の根幹である点呼を怠った今回の重い処分は、組織的な法令遵守体制の再構築が急務であることを強く示唆している。
出典: 読売新聞/Yahoo!ニュース