非正規雇用でさまよう：57歳男性、手取り15万円で直面する「貧困強制社会」の現実

現代日本社会では、非正規雇用の拡大が急速な所得格差を生み出し、「貧困のワナ」に一度陥ると抜け出すことが極めて困難な「貧困強制社会」という現実が存在します。本記事では、特に男性の貧困に焦点を当て、「ボクらの貧困」の実態を個別の事例を通して深く掘り下げます。今回紹介するのは、57歳でダブルワークのアルバイトをかけ持ち、月に約15万円の手取り収入で暮らす一人の男性です。

ナオキさん（57歳）、手取り15万円の現実

今回、その厳しい現実を語ってくれたのは、仮名ナオキさん、57歳です。私の「仕事は何時に終わるのですか？」という質問に対し、ナオキさんは困ったような表情で「会社に行ってみるまでわからないんですよ」と答えました。

不安定なシフトと「早帰り」の問題

ナオキさんは現在ダブルワークで生計を立てています。その一つは物流倉庫でのアルバイト勤務で、契約上は朝9時から夕方5時までの予定です。しかし、実際のところは、その日の朝になって「今日は〇時まで」と、定時よりも大幅に早い時間を一方的に指定され、帰宅を命じられる日々が常態化しています。

業務内容はピッキング作業で、時給は東京都の最低賃金と同じ1163円です。この「早帰り」は、その日の業務量が少ないことを理由に行われ、週に2回ほど発生します。時には午後2時半や午後3時に終了となることもあります。

時給で働く労働者にとって、こうした一方的なシフトカットは文字通り死活問題です。特に当日になって通告されるため、別のアルバイトを入れるといった対応も不可能です。ナオキさんは「急に休めと言われても、どうしていいのかわかりませんよね」と困惑を隠しません。

時給労働者の死活問題と法の壁

会社の担当者にこの状況を訴えたこともありましたが、「賃金の6割を払っているので問題ない」という返答でした。「平均賃金の6割以上の休業手当を支払う」という労働基準法の規定には抵触していないという主張のようでした。

非正規雇用で働く57歳男性ナオキさん。バイク通勤により日焼けした腕が見える

しかし、出勤する労働者は皆、契約通りの満額の賃金が支払われることを期待しています。納得できなかったナオキさんは、労働基準監督署にも相談に赴きましたが、「お気持ちはわかります。でも、違法とまではいえません」と門前払いされてしまったといいます。

この物流倉庫は出版取次大手が運営しており、ナオキさんはその会社が業務委託した下請け会社に雇用された請負労働者です。同僚の中には、ナオキさんよりもさらに短い時間で帰される人もいる状況とのことです。

最低賃金からの脱却と物価高の追い打ち

時給はもう何年も最低賃金に張り付いたままです。ナオキさんは「毎年秋に改定される地域別最低賃金が唯一の賃上げです」とため息をつきます。そのうえ、頻繁なシフトカットの影響で、この仕事からの手取り収入は毎月約10万円ほどに留まっています。

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そこにきて、近年の物価高が追い打ちをかけ、生活はさらに厳しさを増しています。ダブルワークをしても手取りが約15万円という状況は、まさに非正規雇用が生み出す貧困の厳しい現実を示しています。

結論

ナオキさんの事例は、現代日本の非正規雇用労働者が直面する不安定な労働環境、低賃金、そして法的な保護の限界という問題を浮き彫りにしています。一度「貧困のワナ」に陥ると、働く意欲や努力だけでは容易に抜け出せない、厳しい現実が多くの人々を待ち受けているのです。この「貧困強制社会」の実態は、社会全体で向き合うべき重要な課題です。