メディアにおけるコンテンツ利用の規範が問われる中、大手新聞社である朝日新聞社が、JBpress配信の動画コンテンツを巡り波紋を広げている問題が浮上しました。日本大学危機管理学部教授で社会学者の西田亮介氏が指摘するのは、朝日新聞社によるJBpressの「政治コンテンツ」(動画)の取り扱い方です。動画の文字起こし全体を「引用」として掲載し、さらに本文と無関係の写真を添え、広告や有料会員への導線が設置されたサイトに転載したこの事案は、朝日新聞の著作権問題としてメディア倫理や報道機関の信頼性が問われています。
JBpressコンテンツ無断使用問題に関連する朝日新聞社の社旗
事案の概要:JBpress動画コンテンツの「無断引用」とは
問題の発端は、JBpressが企画・編集し、西田亮介氏がホストを務めるYouTube対談シリーズ「週刊時評@ライブ」のコンテンツ利用を巡るものです。月1回更新予定のこのシリーズのうち、2025年5月16日に収録され、5月22日から順次公開された4分割の動画コンテンツが事案の対象となりました。特に、動画のパート(2)の約3分40秒以下の部分について、朝日新聞社がその文字起こし内容を丸ごと利用した点が問題視されています。
朝日新聞社はこの文字起こしコンテンツを「引用」として掲載したとされていますが、西田氏によると、それは単なる短い引用ではなく、動画全体のテキストをほぼそのまま転載したものであるとのことです。さらに、記事には本文内容(動画の対談内容)とは無関係な、まるで国会での発言であるかのような誤認を誘発しかねない写真が掲載されました。掲載先は朝日新聞社の広告が多数表示されるサイト、そしてYahoo!ニュースへの転載であり、これらのサイトは有料会員への導線とも直結していました。
問題視される朝日新聞の行為
西田氏が指摘する朝日新聞社の行為の問題点は複数あります。第一に、動画コンテンツの文字起こし全体を「引用」として利用したことです。これは著作権法における適正な「引用」の範囲を明らかに超えており、実質的にはコンテンツの「転載」に当たると考えられます。しかし、その転載行為に適切な許諾や出典の明記、範囲の限定などが伴っていなかったとされています。
第二に、掲載された記事に、内容と全く関連性のない写真を挿入したことです。特に、国会議事堂などを背景にした写真を使用した場合、読者が動画の内容が国会での発言であると誤解する可能性があり、情報の正確性を損なう行為と言えます。
第三に、こうした手法で作成されたコンテンツが、広告収入や有料会員獲得に繋がるウェブサイト上で公開された点です。他者の著作物を無断または不適切に利用し、それによって自社の商業的利益を図る行為は、著作権侵害や不公正な競争に繋がりかねません。
インターネット時代において、紙媒体の「紙幅の制限」といった言い訳は通用しません。西田氏は、今回の朝日新聞社の対応は、新聞業界における過去の慣習をデジタル環境にそのまま持ち込もうとした不自覚さを示すものであり、メディアの倫理観や著作権に対する意識が問われる事案だと強く批判しています。
問題提起の背景:対象となったJBpress動画シリーズ
この問題の対象となった「週刊時評@ライブ」シリーズは、JBpressがYouTubeで配信する新しい動画コンテンツです。日本大学の西田亮介教授がホストとなり、政治家や専門家と対談する形式で、現代社会の様々な論点に切り込んでいます。直近では、国民民主党の伊藤孝恵氏をゲストに迎え、政治とSNS、ネット選挙戦略、若年層の抱える問題、年金問題、就職氷河期世代の困難など、幅広いテーマで議論が交わされました。特に問題となった動画パート(2)では、国民民主党の公認候補選定や、いわゆる「手取り問題」など、政策や政党運営に関する具体的な議論が含まれていました。西田氏は、自身の経験を踏まえ、こうしたコンテンツが無断で利用され、本来意図しない文脈で消費されることに強い不快感を示しており、出演者の立場からもメディアの適切なコンテンツ利用のあり方を問い直す必要性を訴えています。
結論
今回の朝日新聞社によるJBpress動画コンテンツの取り扱いを巡る問題は、デジタル時代における報道機関のコンテンツ利用、特に引用と転載の境界、著作権の尊重、そしてメディア倫理の遵守がいかに重要であるかを改めて浮き彫りにしました。西田亮介氏による問題提起は、大手メディアによる不適切なコンテンツ利用が、情報発信源である著作者やプラットフォームへの信頼を損なうだけでなく、メディア全体の信頼性にも影響を与えることを示唆しています。報道機関は、他社のコンテンツを利用する際に、その利用が適正な範囲内であるか、適切な出典表示がなされているか、そして商業目的での不適切な利用になっていないかなど、より一層厳格な自己規律と倫理観を持つことが求められています。
[参考] Yahoo!ニュース(元記事: JBpress)