フィリピンの国民的シンガーソングライター、フレディ・アギラ氏が2025年5月27日にマニラ首都圏ケソン市の病院で72歳で死去しました。母語での歌にこだわり、特に世界的なヒット曲『アナック』や、フィリピンの歴史と深く結びついた『バヤンコ』で知られます。
世界的ヒット『アナック』
彼の代表曲『アナック(Anak)』は、1977年の発表後、道を踏み外した息子への親心を歌った普遍的なテーマが響き、約30カ国語に翻訳され世界中で3000万枚以上のセールスを記録しました。日本でも「息子よ」のタイトルで杉田二郎氏らがカバーし大ヒットしたほか、加藤登紀子氏、南こうせつ氏、尾崎紀世彦氏ら多くのアーティストに歌い継がれ、広く知られています。
フィリピンのシンガーソングライター、フレディ・アギラ氏がライブパフォーマンスを行う様子。世界的なヒット曲『アナック』で知られる。
「アナック」以外にも、貧困問題を描いた「マグダレーナ(Magdalena)」など社会的なメッセージを持つ楽曲を多数発表し、フィリピン独自の音楽ジャンルであるOPM(Original Pilipino Music)を代表する存在となりました。
抵抗の歌『バヤンコ』
しかし、フィリピン国内で彼の名を聞けば、『バヤンコ(Bayan ko)』(わが祖国)を思い浮かべる人が多いでしょう。この歌は、1986年のピープルパワー革命時に反マルコス集会でフレディ氏によって繰り返し歌われ、人々の抵抗と団結のシンボルとなりました。もともと1928年に独立運動のために作られた歌でしたが、マルコス大統領(シニア)の戒厳令下では禁止歌となり、集会の現場でフレディ氏が歌うことで参加者の高揚感を最高潮に高めました。
遺した功績
フレディ・アギラ氏は、単なるシンガーソングライターとしてだけでなく、その力強い歌声と社会的なメッセージを通じて、フィリピン音楽史だけでなく、国の歴史においても重要な足跡を残しました。彼の遺した音楽は、今後も多くの人々に歌い継がれていくことでしょう。