フランスの人気YouTuber「TomASMR」が、東日本大震災で被災し、東京電力福島第一原発事故の影響を受ける福島県浪江町とみられるエリアでASMR動画を撮影・公開し、インターネット上で大きな波紋を呼んでいます。特に、個人の住宅と思われる空き家へ無断で立ち入って撮影したことに対し、「不謹慎」「不法侵入ではないか」といった厳しい批判が相次いでいます。
TomASMRとは?物議を醸すASMR動画の全貌
「TomASMR」は、YouTubeチャンネル登録者数99.2万人(10月17日時点)を誇る人気のフランス人YouTuberです。脳に心地よい刺激を与える「ASMR」コンテンツを中心に配信し、多くのファンを獲得しています。
問題となっているのは、「ASMR IN FUKUSHIMA」と題された動画です。この中でTomASMRは、白い防護服を着用し、放射線測定器を片手に、浪江町と思われる地域の路上や電柱、シャッターが閉まった銀行の自動ドアなどを指で叩き、その音を録音していきます。動画の冒頭は屋外での撮影でしたが、場面が変わると、個人宅と思われる空き家の中へ。半壊した部屋には衣類や家具などが散乱しており、「すごい、日本の家だ」といった言葉とともに、タンスやふすまを叩いて音を採集する様子が記録されています。壁に掛けられたカレンダーが2011年3月のままになっているのを見つけ、感嘆する一幕もありました。
福島県浪江町の被災した空き家でASMR動画を撮影するフランス人YouTuber「TomASMR」の姿
さらに別の部屋へ移動すると、子供が使用していたであろうキャラクターの壁飾りやアップライトピアノが残されていました。扉を失ったタンスには衣類がハンガーに吊るされたままになっており、そこには住人が生活していた当時の様子がそのまま残されていたのです。しかし、TomASMRはここでも、目につくものを次々と叩いて音を採集し続けました。
東日本大震災と浪江町の苦難:デリケートな被災地の現状
浪江町は、2011年3月11日の東日本大震災で最大震度6強の地震に見舞われ、182名もの尊い命が奪われました。加えて、東京電力福島第一原発事故により、町の大半がいまだに帰還困難区域に指定されており、多くの住民が故郷への帰還が叶わない状況が続いています。このような背景を持つ浪江町は、震災の記憶と復興への道のりが交錯する、非常にデリケートな地域です。
世論の反応:評価と厳しい批判、そして不法侵入の疑い
動画が公開されると、コメント欄には様々な意見が寄せられました。中には、「被災地の現状を動画として世界へ共有する意義がある」「記録・伝承の観点から評価できる」といった肯定的な声もいくつか見られました。しかし、その大半はTomASMRの行為に対する厳しい批判でした。
「結局日本をバカにしているんだろうな」「笑えない」「馬鹿にしているのか?ここに住んでいた人たちの気持ちも考えようとしないのか?人の思い出も踏み荒らしているんだよ」といった、YouTuberの姿勢を疑問視し、怒りを表明するコメントが殺到しました。特に、空き家での撮影に対しては、「不法侵入ではないか?」との指摘が相次ぎ、法的な問題も提起されています。
YouTuber本人の釈明と浪江町の公式見解
こうした批判を受け、TomASMRはコメント欄に英語で釈明を追記しました。「禁止区域やレッドゾーンには行かず、許可された区域のみを訪れました。このような光景を目の当たりにするのは感動的で、だからこそ私たちは最大限の敬意を持って行動しました。また、レコーディング中に何人かの住民と話しましたが、知識を深める貴重な冒険となりました」と説明しています。
この件について浪江町防災安全係の担当者に問い合わせたところ、問題の動画を「把握している」とし、次のように回答しました。「浪江町にはゲートで囲われ立ち入ることができない帰還困難区域もありますが、動画が撮影されたエリアは解除区域なので通行することは可能です。しかし、個人の敷地内に立ち入ることは浪江町関係なく全国的にダメですよね。動画については県の方からも連絡が来ましたが、警察や行政が委託している警備会社、町で組織している”見守り隊”など、各防犯関係に周知して、パトロール強化を図っているところです。」
浪江町のコメントは、動画が撮影された地域自体は立ち入りが制限されていないものの、個人の敷地への無断立ち入りは違法であるという認識を示しており、法的な問題がある可能性を裏付けています。
繰り返される外国人YouTuberによる問題行為
外国人配信者による被災地での不適切な行為は、これまでにもたびたび問題となってきました。今年9月24日には、立ち入り禁止の帰還困難区域にある福島県大熊町の空き家に不法侵入したウクライナ人3人が逮捕されています。彼らは室内でお茶を沸かしたり、住人が残した物をあさるところを生配信しており、通報を受けた警察官による現行犯逮捕でした。
また、2024年7月にも、帰還困難区域とみられるエリアで建物や学校などに防護服を着て侵入した外国人YouTuberによる動画が炎上しています。今回TomASMRが訪れたのは解除区域であったものの、WEBメディア記者は「そこに住んでいた人たちが残していかざるを得なかった自宅に土足で踏み込んだことは、違法である以前に、許されないことだと思います」と指摘しています。
震災から14年が経過した今もなお、故郷への帰還が叶わない人々が多数暮らす浪江町において、被災地を動画撮影の「ネタ」として利用することが適切であるのか、インターネット上での情報発信に携わる者として、その影響と責任を深く思い巡らせる必要があります。
参考文献: