米国政界で新たな動きとして、「第3政党」の可能性が浮上している。特に注目されるのは、2022年に「前進党(フォワード・パーティー)」を立ち上げたアンドリュー・ヤン氏が、テスラやスペースXの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏に対し、新党結成や協力に関するラブコールを送ったことだ。これは、米国の二大政党制に対する不満が高まる中で起こっており、マスク氏自身の最近の政治的発言とも関連している。
ヤン氏、マスク氏に新党結成を呼びかけ
台湾系出身の元民主党政治家であるアンドリュー・ヤン氏は、6月7日(現地時間)、米政治専門メディア「ポリティコ」のインタビューに応じ、マスク氏に直接連絡を取り、新しい政党を結成あるいは自身の前進党と協力することについて提案したことを明らかにした。ヤン氏は、マスク氏からの返答はまだないとしつつも、「マスク氏は非常に忙しいのだろうと推定している」「我々は数年間にわたって米国に新しい政党が必要だと考えてきた。24時間を追加で待つことくらい何でもない」と述べ、協力への期待を示した。彼は、現在の米国政治システムが抱える機能障害と両極化、そしてそれによって深刻化する状況を問題視しており、「彼ら(無所属有権者)はどの政党も自分たちを代表していないと感じており、両党体制では自分たちの思いを実現できないと考えている」と、新たな政治勢力の必要性を強調した。
米国政治家アンドリュー・ヤン氏、マスク氏に協力呼びかけ 米国政治の課題解決を目指す「フォワード・パーティー」代表
マスク氏の「新党必要論」と共和党からの距離
ヤン氏のマスク氏へのアプローチは、マスク氏自身が最近表明した「新党必要論」に呼応する形で行われた。マスク氏は6月6日、自身が所有するソーシャルメディア「X」上で、「米国で実際に中間にいる80%を代表する新しい政党を作る時になったのではないか」と問いかけ、翌日には回答者の80%が創党を支持したという結果を公開し、「米国には新たな政党が必要だ」と宣言した。この発言は、減税法案を巡るドナルド・トランプ前大統領との公開的な不和に触発されたものと見られている。かつてトランプ氏再執権成功の主要な功労者の一人と見なされていたマスク氏は、最近の対立を契機に、共和党との距離を置く姿勢を見せている。
米国における「第3政党」の現実
米国では長らく、共和党と民主党という二大政党による体制が不動のものとなっている。国民の間で二大政党に対する不満や、より多様な選択肢を求める声が上がるたびに「第3の政党」の必要性が議論されるが、実際に二大政党に割って入るほどの勢力を築いた事例は極めて少ないのが現状だ。マスク氏に協力を要請したヤン氏自身も、2020年の民主党大統領選候補予備選や2021年のニューヨーク市長予備選挙で敗退した後、民主党を離党。元ニュージャージー州知事のクリスティーン・トッド・ウィットマン氏らとともに前進党を創設したが、現時点では目立った政治的影響力を確保するには至っていない。
マスク氏の資金力が影響力となるか
イーロン・マスク氏は、過去に共和党と民主党の両方に政治献金を行っており、幅広い政治家を支援してきた経緯がある。昨年は共和党の主要な献金者の一人だったが、トランプ氏との関係悪化により、その政治献金の矛先が変わる可能性が指摘されている。米政治専門メディア「ザ・ヒル」は、「マスク氏が共和党との関係を断絶した今、政治新人は未来の選挙のために億万長者の強力な資金支援を活用する方案を期待している」と分析している。アンドリュー・ヤン氏の前進党や、今後新たに生まれる可能性のある政治勢力が、マスク氏の莫大な資金力を獲得できるかどうかが、米国における「第3政党」運動の行方を左右する重要な要素となるかもしれない。
まとめ
アンドリュー・ヤン氏がイーロン・マスク氏に米国における「第3政党」創設または協力の呼びかけを行ったことは、米国の二大政党制に対する既存の政治家や有力者の不満が顕在化していることを示している。マスク氏自身も新党の必要性を説いており、特に共和党との関係に変化が見られる中、ヤン氏のアプローチはそのタイミングに乗じたものと言える。しかし、歴史的に見て米国で第3政党が根付くことは困難であり、マスク氏の資金支援があったとしても、その影響力がどこまで及ぶかは不透明だ。今後のマスク氏の動向と、ヤン氏の前進党、そして米国の政治状況がどう変化していくかが注目される。
参考文献
- Politico (ポリティコ)
- The Hill (ザ・ヒル)
- Reuters, Yonhap News (ロイター、聯合ニュース)