声優と聞いて、かつては主にアニメキャラクターに命を吹き込む存在というイメージが強かったかもしれません。しかし近年、特に2020年以降のコロナ禍を経て空前のアニメブームが到来し、動画配信サービスが広く定着したことで、声優という職業の社会的な位置づけは劇的に変化しました。今やその活躍の場はアニメのアフレコにとどまらず、バラエティ番組やドラマ、情報番組など、より幅広いメディアへと広がっています。世間一般の認知度が高まり、「声優人気」はアニメファンコミュニティを超えた現象となっています。
人気声優によるアニメアフレコの様子。コロナ禍以降のブームで注目度が増している。
なぜ現在の声優人気はこれほど広まったのか
実は声優ブーム自体は、過去にも何度か訪れています。黎明期から活躍するレジェンド世代、そして1990年代から2000年代にかけては、アニメのアフレコだけでなく、キャラクターソングの歌唱、ライブ活動、ラジオ番組、写真集の発売など、多岐にわたる活動を展開し、アイドル的な人気を博す声優が多数出現しました。こうした人気声優には、ファンによる熱心な「出待ち」や「追っかけ」があり、なかには日本武道館での単独公演を成功させたり、NHK紅白歌合戦への出場を果たした方も存在します。
しかし、これらの活動や人気は、当時の主流であった深夜アニメ視聴層や、声優文化に特化したファンコミュニティ内で完結している側面が強く、アニメを普段見ない一般層が声優個々の名前や顔を認識する機会は、ごく一部の例外を除いて限定的でした。
社会現象となったアニメと動画配信サービスの定着
この「一般層への浸透」という点で状況が大きく変わったのは、2020年前後から社会現象となったアニメ『鬼滅の刃』の大ヒットと、同時期に多くの人が自宅で過ごす時間が増えたコロナ禍において、動画配信サービスが娯楽として広く定着したことが決定的な要因です。
それまで地上波放送やDVD/BD販売が中心だった深夜アニメは、その性質上、特定のアニメファン以外へのリーチが難しいコンテンツでした。しかし、NetflixやAmazon Prime Video、Huluなどの動画配信サービスを通じて、好きな時に好きな場所で手軽にアニメを視聴できる環境が整ったことで、それまでアニメに縁がなかった層や、過去に離れていた「出戻り組」にも広く作品が届くようになります。
『鬼滅の刃』が老若男女問わず絶大な人気を獲得したのを皮切りに、『呪術廻戦』、『東京リベンジャーズ』といった、原作の持つ魅力に加え、アニメーション作品としての完成度も高く評価された作品が次々と生まれ、社会現象と呼べるほどの大きなムーブメントとなっていきました。
一般メディアへの露出増加と声優の多様なキャリア
これらの「社会現象アニメ」が、ニュース番組やワイドショー、情報バラエティ番組などで頻繁に取り上げられ、「見るべき作品」として世間に認知されるようになると、そこに声を吹き込んでいる出演声優の方々にも自然と注目が集まるようになりました。その結果、これまで声優のメディア露出といえば、『ドラゴンボール』や『ドラえもん』、『サザエさん』といった長年親しまれてきた「国民的アニメ」の主要キャストにほぼ限られていましたが、状況が一変します。
昨今のブームを牽引した作品群は、以前の国民的アニメとは層が異なりますが、社会現象と化したことで、その作品やキャラクターの声優が「お茶の間でも通じる」存在となりました。これを背景に、『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)で、特定の作品に偏らず、多様な世代やキャリアを持つ人気声優が一堂に会する「声優祭り」といった企画が実現するなど、声優がタレントとしてバラエティ番組や情報番組にゲスト出演する機会が飛躍的に増加しています。このことは、声優が持つ表現力やトークスキルといった多様な才能が、アニメの枠を超えて広く評価され始めていることを示唆しています。
まとめ
コロナ禍以降の空前のアニメブームと、それを後押しした動画配信サービスの急速な普及は、日本の「声優」という職業の社会的認知度と、その活躍のフィールドを劇的に拡大させました。かつてはアニメファン特有の存在だった声優が、社会現象となった作品群をきっかけに一般層にも広く知られる存在となり、今後はさらに多岐にわたるメディアや表現の場でその才能を発揮していくことが期待されます。