NATO、防衛費GDP比5%へ増額合意 トランプ氏圧力と日本への影響

NATO(北大西洋条約機構)は、加盟国の防衛費をGDP比5%に引き上げることで合意しました。この合意の背景にはアメリカのトランプ大統領の強い要求があり、日本に対しても同様に防衛費を5%まで引き上げるべきだとの圧力がかかっています。本稿では、NATOの新たな目標と、それが日本にどのような影響を与えるのかを解説します。

NATO防衛費5%目標の具体的な内容

6月25日に採択されたNATO首脳会議の首脳宣言では、加盟国に対して防衛費をGDP比5%に引き上げる新たな目標が合意されました。これまでの目標はGDP比2%以上でした。新しい5%の目標の内訳は、兵器調達など「中核的な防衛費」に3.5%、インフラや産業など防衛・安全保障関連投資に1.5%を充てることとされています。この目標は2035年までに達成を目指すもので、2029年には見直しも予定されています。

合意の背景にあるトランプ氏の圧力

今回の防衛費目標の大幅引き上げ合意には、アメリカのトランプ大統領の強い影響力がありました。トランプ氏は第1次政権時から、NATO加盟国が自国の防衛のために十分な支出をしていないとして、「不公平だ」と批判し、NATOからの離脱を示唆しながら加盟国に防衛費負担の増加を求めてきました。今回の合意を受けて、トランプ氏は「とても大きなニュースになる。NATOはアメリカと共に強くなる。みんなにとって大きな勝利だ」と満足感を示しています。

トランプ氏への「ご機嫌取り」も

首脳会議前から、トランプ氏への「ご機嫌取り」とも見られる動きがありました。NATOのルッテ事務総長は会議前、トランプ氏に「この数十年間、どの大統領も成し遂げられなかったことをあなたは達成するでしょう。欧州は大きな額を払うことになるが、それはあなたの勝利となります」とのメッセージを送っていました。会議中には、オランダ国王がトランプ氏をハウステンボス宮殿に招待するなど、異例の歓待も見られました。

専門家が見る合意の真意

元海上自衛隊 自衛艦隊司令官の香田洋二氏は、今回のNATOの合意について、「NATOが一番恐れているのはアメリカが離脱し、ロシアの影響力が大きくなることだ。ウクライナ侵攻で目に見える形となって表面化したので、アメリカの引き留めに必死なのだろう」と分析しています。これは、ロシアの脅威とアメリカのコミットメント維持という地政学的な要因が、防衛費増額合意の強力な推進力となったことを示唆しています。

加盟国間の防衛費増額への温度差

防衛費5%の目標には合意したものの、加盟国の間ではその達成に向けた温度差も見られます。2024年時点でのGDP比防衛費は、ポーランドが4.12%と最も高く、5%を主張するアメリカは3.38%です。現行目標である2%以上を達成できていない国もスペインを含む9カ国あります。

防衛費増額に前向きな国としては、イギリスのスターマー首相が「不安定な時代に生きていることは明らかだ」として、2035年までに国防費と安全保障支出をGDP比5%まで引き上げることを公約に掲げています。ドイツの関係筋も、2029年までに国防費をGDPの3.5%に引き上げる方針を明らかにしています。

一方、スペインは自国を目標対象外とするよう要請し、強く反発しています。これに対しトランプ氏は、「スペインはひどい。全額払わない唯一の国だ。2倍の関税を払わせるつもりだ」と名指しで非難しており、加盟国間の駆け引きが続いています。

日本への防衛費増額圧力

今回のNATOの防衛費5%目標合意は、日本にも直接的な影響を及ぼす可能性があります。アメリカは、日本に対してもNATOと同じように防衛費をGDP比5%に引き上げる必要があると要求しているためです。現在、日本の防衛費はGDP比約1%強ですが、仮に5%に引き上げられれば、その予算規模は大幅に増加することになります。これにより、日本の安全保障政策や財政運営は大きな転換期を迎える可能性があります。

日本の現在の防衛費とGDP比5%にした場合の概算予算規模を示したグラフ日本の現在の防衛費とGDP比5%にした場合の概算予算規模を示したグラフ

まとめ:NATOの防衛費増額と日本への影響

NATOが防衛費目標をGDP比5%に引き上げた合意は、トランプ大統領の強い要求とロシアの脅威を背景に進められました。加盟国間には温度差があるものの、全体として防衛支出を大幅に増やす方向へと舵が切られました。この動きは、アメリカからの圧力という形で日本にも波及しており、日本の防衛費をGDP比5%とするべきだとの要求が出されています。国際情勢の緊迫化とアメリカの同盟国への負担増要求は、日本の安全保障政策と財政に今後大きな影響を与えるでしょう。

参照元

https://news.yahoo.co.jp/articles/012402bc548bcd1ad61fc84676059040f84796dd