宝石商はこれまで、研ぎ澄まされたファセットと比類なき透明度、例えば「IF（インターナリーフローレス）タイプ2a」のような科学的な厳密さで、宝石の価値を決定づけてきた。これは10倍に拡大しても内包物が見えないほど高純度なダイヤモンドを指す用語だ。ファセットがよりシャープで、輝きが完璧であればあるほど、その宝石は高く評価されるのが伝統的な基準だった。
しかし、この長年の常識が変わりつつある。かつては傷が多すぎたり、色が暗すぎたり、あるいは単に型破りすぎるといった理由で「みにくいアヒルの子」として見向きもされなかった宝石たちが、今、脚光を浴び始めているのだ。高級ジュエリーの世界では、ユニークな内包物を含んでいたり、伝統的な透明度の基準を満たさなかったりする宝石を積極的に使用し、その個性や物語性を価値として打ち出すブランドが増えている。
新しい美の基準 – ポメラートのアプローチ
この新しい潮流をいち早く取り入れたのが、イタリア・ミラノを拠点とする宝石ブランド、ポメラートだ。同社は5年前に初のハイジュエリーコレクションを発表する際、伝統的な「ビッグ4」（ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド）から意図的に距離を置き、くすんだ色合いや、時にはカットすら施されていない個性的な天然石を取り入れるという大胆な賭けに出た。
競争の激しい市場で存在感を放つ、ポメラートの型破りなライトブルー石ネックレス
ディオール、ルイ・ヴィトン、ドルチェ＆ガッバーナ、グッチといった名だたるファッションブランドがひしめく競争の激しい高級ジュエリー市場において、ポメラートはこの独自の美学を追求し続けることで、強い存在感を示している。最近発表された作品の例として、ファセットを排した大ぶりの滑らかなアクアマリンのネックレスがある。その柔らかな曲線は、まるで海によって形作られた天然石のようであり、ダイヤモンドのスレッドは海中の希少な石を捕獲する船乗りのロープを模している。また別のネックレスは、ミラノの夜空からインスピレーションを得ており、グレーサファイアとスピネルによるスモーキースターが揺れ動くデザインだ。
ジェムマスターが語る哲学
ポメラートのジェムマスター、ステファノ・コルテッチ氏は、同社の宝石に対する考え方をこう語る。「ポメラートでは、『貴石』や『半貴石』といった従来のカテゴリー、あるいは高価さを基準に宝石を分類することはしていません。我々はすべての石を平等に扱っています。どの石も独自の個性や美しさを持っているからです。重要なのは、その石がどのように使われ、どのようにカットされるかです」。
地質学者としての訓練を受け、この分野の大学教授の家庭で育ったコルテッチ氏は、20年近く前にポメラートに加わった当初から、一般的な宝石バイヤーとは一線を画す異色の存在だった。業界標準のカットと研磨が施された石のみを調達する手法ではなく、原石そのものを選ぶことに着手。クリエーティブ・ディレクターのビンチェンツォ・カスタルド氏と共同で作り上げた新しい美の基準に従い、カッターに原石の加工を依頼する手法を取り入れた。
「ヌード」カットに見る非対称の魅力
コルテッチ氏は、伝統的な宝石の世界が極めて対称性を重視する傾向にあることを指摘する。「ダイヤモンドは通常、対称的にカットされた57面のファセットを持ちます。ポメラートが『ヌード』と呼ぶ宝石もまた57面のファセットを持っていますが、それらはすべて非対称でランダムな配置です。これにより、伝統的なカットとは全く異なる、予想外で魅力的な印象が生まれるのです」。
この非対称で個性的な「ヌード」カットは、ポメラートの新しい美学を象徴している。完璧な対称性ではなく、それぞれの石が持つユニークな形や色合い、そして不完全さの中にこそ美しさを見出し、それを最大限に引き出すという彼らの哲学が形になったものと言えるだろう。
結論
高級ジュエリー市場において、完璧さのみを追求する従来の価値観から、石本来の個性やユニークな「不完全さ」に美しさを見出す新しいトレンドが確実に生まれている。ポメラートは、その大胆なアプローチとジェムマスターの確固たる哲学により、この変革の先頭に立っているブランドの一つだ。この新しい潮流は、宝石の多様な魅力を再認識させ、高級ジュエリーの可能性を広げている。
