香港の著名な富豪である李嘉誠(り・かせい)一族が保有する住宅400戸が、相場を大きく下回る価格で一斉に市場に売り出されたことが報じられ、大きな注目を集めています。この大規模な不動産売却は、単なる経済活動としてだけでなく、中国および香港の経済情勢や国際的な地政学リスクとの関連性も指摘されており、様々な憶測を呼んでいます。
2018年3月、香港での記者会見で発言する李嘉誠氏。長江グループの資産管理戦略と中国不動産市場の動向が注目される。
長江グループによる大規模売却の概要
7月31日、中国の経済紙「毎日経済新聞」によると、李嘉誠一族が率いる長江グループの系列会社である「ハチソン・ワンポア不動産」が、所有する住宅400戸を同時に市場に放出しました。これらの物件は、中国南部の広東省や香港を含む4つの地域に分散しており、マンションやヴィラ団地の一部が含まれています。最低価格は1戸あたり40万元(約835万円)と設定されており、現地の不動産仲介業者からは、一般的なマンションの頭金レベルに過ぎない「投げ売り価格」だと伝えられています。この一斉売却は、市場に大きな影響を与える動きとして受け止められています。
李嘉誠一族の戦略的資産管理と市場の低迷
今回の不動産の一括売却は、李嘉誠一族が長年にわたり行ってきた資産管理戦略の一環であると「毎日経済新聞」は分析しています。実際、長江グループは2015年にも香港株式市場が好調だった時期に、数百戸単位の不動産を売却し、わずか1カ月で日本円換算で約1000億円を超える現金を確保した実績があります。
近年、中国の不動産市場は長期的な低迷が続いており、特に香港および中国本土のマンションでは大幅な割引売却が頻繁に見られます。今回の長江グループによる大規模売却も、こうした市場状況下での「在庫一掃」という側面があると指摘されています。これは、将来的な市場の不確実性を見越した、先駆的な動きとも解釈できます。
売却の背景に広がる複数の憶測
今回の長江グループによる大規模な不動産売却については、中国本土でその背景に関して様々な憶測が飛び交っています。
一部では、先見の明を持つ投資家として知られる李嘉誠氏が、香港ドルの価値下落をあらかじめ予見し、香港に保有する資産を先制的に整理しているのではないかとの見方が浮上しています。経済の先行きに対する深い洞察に基づいた行動として、市場関係者の間で話題になっています。
一方、別の憶測としては、李嘉誠一族が支配するCKハチソン・ホールディングスが、米中対立の渦中にあるパナマ運河の運営権を保有していることが挙げられます。米国のドナルド・トランプ大統領が2期目の政権発足直後から「中国が運営しているパナマ運河を取り戻さなければならない」と主張していたことは記憶に新しいでしょう。これに対し、CKハチソンは運営権などを米国の資産運用会社に売却する方針を示しましたが、中国当局がこれを牽制したことで、現在も契約は保留された状況にあります。このような国際政治の緊張関係が、李嘉誠一族の資産管理戦略に影響を与えている可能性も指摘されています。
結論
李嘉誠一族による大規模な不動産売却は、単なる市場価格の変動を超えて、中国不動産市場の長期的な低迷、香港経済の先行き、さらには米中対立といった複雑な経済的・地政学的要因が絡み合っている可能性を示唆しています。香港随一の富豪が下したこの決定は、今後のアジア経済や国際関係の動向を占う上で、引き続き注目されることでしょう。
参考文献
- 毎日経済新聞
- AP=聯合ニュース