中国EVトラック大手「葦渡科技」、仏に大規模工場建設へ 約290億円投資

フランスのマルク・フェラチ産業・エネルギー担当大臣は先日、中国の大型電動トラックメーカー「葦渡科技(ウィンドローズ・テクノロジー)」がフランス東部のオルナンに長距離EVトラックの生産拠点を建設すると明らかにした。同社は、この工場建設に1億7500万ユーロ(約290億円)を投じる計画だ。この動きは、欧州におけるEVトラック市場の拡大と、中国企業のグローバル戦略の加速を示すものとして注目されている。

「葦渡科技」は、電気を動力源とする大型スマートトラックの総合ソリューションを提供する企業である。中国国内の主要な拠点を安徽省合肥市、江蘇省蘇州市、香港に持ち、欧州本部をベルギーのアントワープに置いている。同社は成長資金の調達にも積極的で、2024年7月にはプレIPOラウンドでベルギーの政府系ファンドから2億ドル(約290億円)を調達するなど、大規模な投資を呼び込んでいる。

中国の大型EVトラックメーカー「葦渡科技」が製造する車両の外観中国の大型EVトラックメーカー「葦渡科技」が製造する車両の外観

高性能大型EVトラックの仕様と市場での需要

葦渡科技の大型EVトラックは、729キロワット時(kWh)という大容量バッテリーを搭載している点が特長だ。これにより、49トンの貨物を満載した状態でも最大航続距離は670キロメートルに達する。充電システムには800ボルトの高電圧急速充電を採用しており、わずか36分の充電で400キロメートルの走行が可能となる。また、自動運転レベル2+の運転支援システムを備えるとともに、将来的にはレベル4まで対応可能な技術アーキテクチャも構築済みだ。

729キロワット時(kWh)の大容量バッテリーを搭載した大型EVトラック729キロワット時(kWh)の大容量バッテリーを搭載した大型EVトラック

同社はすでに世界の顧客から合計5000台の受注を獲得しており、そのうち35%は仏スポーツ用品大手のデカトロンをはじめとする欧州企業からの注文だという。フランスに建設される新工場は、年間生産能力1万2000台を見込んでおり、稼働後は欧州の顧客に対する納期を3割以上短縮できると期待されている。これは、欧州市場における供給体制を大幅に強化する戦略的な一歩となる。

欧州でのパートナーシップとグローバル展開

葦渡科技は、欧州第3位の通信事業者である仏オレンジとV2X(車車間・路車間通信)に関するパートナーシップを締結している。この提携を通じて、5Gネットワークに基づいた車両の遠隔診断や予知保全などの取り組みを進めている。これにより、欧州の物流企業の業務効率が大幅に改善され、車両のTCO(総所有コスト)を15~20%削減できると試算されている。

欧州以外でも、同社は活発なグローバル展開を図っている。米国ジョージア州ではセミトレーラーの組立工場を建設中で、年内には米国市場向けの出荷を開始する見通しだ。また、ニュージーランドでは1億8000万元(約36億円)の受注を獲得しており、すでに公道での走行テストが始まっている。

国内市場においても、充電インフラの強化に向けた動きを進めている。2025年2月には、中国の充電インフラ大手である特来電新能源(テラディアン)と戦略的パートナーシップを締結した。両社は共同で、北京-上海、上海-広州、北京-広州、そして中国-欧州といった主要な物流幹線上に超急速充電のモデルステーションを設置し、充電データと車両運行システムの完全な連携を目指している。これは、EVトラック普及の課題である充電インフラ不足の解消に向けた重要な取り組みとなる。

まとめと今後の展望

中国の大型EVトラックメーカー「葦渡科技」によるフランスでの大規模工場建設は、グローバルなEVトラック市場における同社の存在感を一層高めるものとなる。高性能な車両技術に加え、欧州大手とのパートナーシップ、北米・オセアニアを含む多角的な市場展開、そして母国での充電インフラ構築への貢献など、その事業戦略は広範囲に及ぶ。フランス工場が稼働することで、欧州市場での供給能力が向上し、顧客基盤のさらなる拡大が期待される。環境規制強化が進む世界的な流れの中で、大型EVトラックは物流業界の脱炭素化に不可欠な存在となっており、葦渡科技の動向は今後も注目される。

*1ユーロ=約163円、1ドル=約143円、1元=約20円で計算しています。

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