石破茂首相に迫る「退陣圧力」と揺れる党内外の動向

「私は退陣するとは一言も言っていない」。石破茂首相(68)は、7月23日に読売新聞が「石破首相 退陣へ」と号外まで出して報じた内容に対し、強い憤りを覚え、その不満を周囲にぶつけている。与党内での進退を巡る混乱は、国民の視線も集めている。

元総理からの直接的な進退要求

同日、首相・総裁経験者である麻生太郎最高顧問(84)、菅義偉副総裁(76)、岸田文雄前首相(67)の3名と石破首相は、自民党本部4階の総裁室で約1時間20分に及ぶ会談を行った。同席した森山裕幹事長(80)が両院議員懇談会を開催し、参院選の総括を行う意向を冒頭に表明。その言葉を黙って聞いていた3人の元首相の中から、麻生氏が石破首相に対し、「石破自民党では選挙は戦えない。しかるべき対応をとらねばならんでしょう」と強く退陣を促した。

これに続き、岸田氏も「参院選の総括に時間をかけていては党内に亀裂が生まれる」と進言すると、麻生氏も頷き、「同じ意見だ」と遠回しに辞任を迫った。しかし、石破首相は「参院選の敗因を分析してから」「日米通商交渉が大筋で合意しただけです」と述べ、自身の進退についての言及は避けた。5日後に両院議員懇談会の開催が予定されており、それ以前に石破首相から辞任の言質を取ることを控える必要があったため、元首相らは「党の分裂は避けねばならない」という婉曲的な表現に終始した。自身が辞任を迫られていることを百も承知で受け流す石破首相に対し、重苦しい雰囲気のまま会談は終了した。

「退陣報道」への官邸の反発とメディアとの対立

石破首相は会談直後、報道陣から読売新聞や毎日新聞が退陣を報じたことについて問われると、「私はそのような発言をしたことは一度もない」と断固として否定した。しかし、読売新聞は同日の夕刊、そして翌24日の朝刊でも「石破首相 退陣へ」という報道を繰り返した。この報道に怒りを覚えた首相官邸は、読売新聞に対して記者団との「オフ懇談会」への出入り禁止処分を科し、メディアとの間に緊張が走った。

退陣圧力の中、国民の声に耳を傾ける石破茂首相退陣圧力の中、国民の声に耳を傾ける石破茂首相

選挙「3連敗」が招いた党内の「石破降ろし」

昨年の衆院選、今年6月の都議選、そして今回の参院選と、自民党は立て続けに「3連敗」を喫した。これにより、自民党は衆参両院で少数与党となり、国会運営は以前にも増して困難な状況に直面している。

選挙の責任者である石破首相の続投表明を巡っては、自民党青年局をはじめ、栃木県連、福岡県連など、12の県連が明確な反発の姿勢を示している。昨年の衆院選敗北後には、西田昌司参議院議員(66)や青山繁晴参議院議員(73)といった旧安倍派の一部議員が反発したが、今回は参院選での歴史的敗北により、そのうねりは比べ物にならないほど大きくなっている。自民党の中堅・若手議員の中には、テレビカメラの前で臆することなく「石破降ろし」を口にする者も現れ、執行部の全面刷新は避けられない情勢と見られている。

石破首相は8月にも自身の進退を最終判断する見通しだが、その間にも課題は山積している。日米通商交渉は大筋で相互関税や自動車関税を15%で合意したものの、国内での対策はまだ決定されていない。国会では野党に頭を下げ続けなければ、予算案どころか法案の一本すら可決できない状況にあり、「’25年度補正予算案を石破政権が策定すべき」との声も出始めている。

首相続投への国民の声と外部からの支持

一方で、自民党の外では石破首相の続投を求める追い風も吹いている。日米通商交渉で関税15%での合意が報じられると、SNS上では「#石破やめるな」というハッシュタグが急拡大した。

7月25日夕刻、昼間の暑さが残る中、首相官邸前には約500人の市民が集結した。「石破は辞めるな!」「踏ん張れ、石破!」とデモ隊が音頭を取ると、集まった聴衆がそれに力強く応じた。町田から参加した60歳の会社員の女性は「エールを送るデモがあるなんて」と笑顔を見せながら、次のように語った。「自民党は足の引っ張り合いで見苦しい。政治と金の問題も有耶無耶のままで、辞めるのは裏金議員で、石破さんじゃない。重鎮が決める政治は終わりにしたい」。埼玉から来た60代の会社員の男性も、「辞めるのは今じゃない。今辞めたら森友学園の問題も闇の中に。職務を全うしてほしい」と石破首相への期待を表明した。

首相官邸前に集結し、石破首相の続投を訴える約500人の市民たち首相官邸前に集結し、石破首相の続投を訴える約500人の市民たち

れいわ新選組の山本太郎代表(50)も、21日の会見で「経済政策としてはかなりイケていないけれど、石破さんでしばらくつなぐというのは安全策かな」と独特な表現でエールを送った。また、参院選で初当選を果たした俳優のラサール石井氏(69)も「#石破やめるな」のハッシュタグが拡散していることに触れ、「ここ最近の自民党の首相では一番まとも」と自身のX(旧Twitter)で綴るなど、党外からの支持は拡大している。

総理と総裁の分離?残された進退の選択肢

自民党の内部と外部では、石破首相の進退を巡って異なる事象が展開している。旧安倍派のある参議院議員は腕を組みながらこう語った。「結果論だが、3人の元総理経験者も石破首相の首に鈴を付けることはできなかった。衆議院選挙後の国会では首班指名選挙が開催されるが、参議院選挙後の国会では同選挙がなく、制度上は石破首相が続投できる」。

反石破派は、党の重要事項を決定できる両院議員総会の開催や、任期途中でも総裁選の開催を求めるリコール規定の適用を模索しているが、これらはあくまで自民党内の手続きであり、総裁の地位には影響を与えるものの、首相の地位に直接及ぶものではない。首相官邸も「仮に総理と総裁を分離したら」と、石破首相の続投に向けたあらゆる手を考えているという。石破首相自身も「辞めると言わない限り、誰も辞めさせることはできない」と開き直りの姿勢を見せていると報じられている。

結論

7月28日午後、両院議員懇談会が開催される予定だ。その場で石破首相が自身の進退についてどのような発言をするのか、国民の注目が集まっている。しかし、国民を蚊帳の外に置いた自民党の混乱は、当分続くものと予想される。

参考資料