6月6日、一人の女性フリーアナウンサーが、出演していた番組内で受けた性的な言動やわいせつ行為により精神的苦痛を受けたとして、番組を制作したTBS系列の放送局「あいテレビ」(愛媛県松山市)に対し、約4111万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。これは、エンターテインメント業界における長年の構造的問題、特にハラスメント行為の根深さを改めて浮き彫りにする出来事です。番組での性的な言動や執拗ないじりが、彼女の心身を蝕み、重度のうつ病に至ったと訴えています。
地方テレビ局でのセクハラ訴訟の詳細
訴えによると、この女性アナウンサーは2016年から5年半にわたり、あいテレビ制作の深夜バラエティー番組に進行役としてレギュラー出演していました。番組のレギュラー出演者である有名タレントと僧侶の男性2人から、継続的に性的な発言やわいせつ行為を受けたと主張しています。具体的には、衣装のファスナーを下ろされるなどのセクハラ行為が多数あったと訴状に記されています。
同日おこなわれた会見で代読された女性のコメントからは、当時の過酷な状況がうかがえます。「出演者らの卑わいな下ネタ話や執拗な性的ないじりを、スタッフらはいつも大笑いして盛り上げ、私がどう反応するかおもしろがっていました」と、番組関係者による状況の助長があったと指摘。さらに、「お酒で酔っぱらった男性出演者、男性ばかりのスタッフ、頼れる人も助けてくれる人もなく、狭く閉鎖された収録場所で男性たちに囲まれ嘲笑され、見せ物のように性的な辱めをうける恐怖は、今でも決して忘れることができません」と、孤立無援の状況での精神的苦痛を明かしました。
仕事を続けるために必死で明るく振る舞い続けた結果、心と体が壊れたという彼女は、プロデューサーらに改善を求めたものの対応されなかったとし、局側が著名タレントに忖度していた可能性を指摘しています。
MLB開幕戦を取材するタレント石橋貴明
著名人のプライベート問題とは異なる職場での被害
近年、松本人志氏、中居正広氏、石橋貴明氏といった“昭和の大御所”と呼ばれるタレントたちが、プライベートでの性加害トラブルに関する報道に巻き込まれています。今回のあいテレビへの提訴も性加害問題として報じられていますが、その性質には大きな違いがあります。
芸能記者は、「松本人志さん、中居正広さん、石橋貴明さんのケースは、主に知り合った女性とのプライベートで起きたトラブルが問題視されています。しかし、かつては、オンエアされた番組のなかで、かなりひどいセクハラが繰り返されていました」と指摘しており、今回の訴訟は後者の「職場での、しかも放送に乗りうる環境下でのハラスメント」に焦点を当てている点が特徴です。
過去の放送事例に学ぶ~「とんねるずのみなさんのおかげです」での一幕~
職場や放送でのハラスメントの事例として、過去の番組での一幕が取り沙汰されることもあります。例えば、1992年10月29日に放送されたフジテレビ系のバラエティー番組『とんねるずのみなさんのおかげです』での出来事が、『週刊女性PRIME』で報じられています。この番組に出演していた女優Xさんは、番組のコントコーナーで体を張る役を担っていましたが、意に沿わないビキニタイプの水着衣装を用意され、出演を決意したものの、石橋貴明氏から「おばちゃん、どうでもいいけど、ワキの毛を剃ってよ」といったアドリブを浴びせられたとされています。
女優Xさんは、この発言に女性としての尊厳を深く傷つけられたと憤慨しており、同誌の取材に対して「石橋さんはひどすぎます」と怒りをあらわにしています。こうした過去の事例は、「笑い」の名のもとにおこなわれた言動が、当事者にとって深刻なハラスメントとなりうることを示しています。
メディア業界の構造的問題と今後の展望
今回の女性アナウンサーによる提訴は、今後、オンエアされた番組そのものにおける責任を問う動きが増える可能性を示唆しています。彼女は、メディア・エンターテインメント業界の構造的な問題やアナウンサーの脆弱性が指摘される中で、「地方・女性・フリーのアナウンサーはさらに立場は弱い」と自身の状況を述べました。
そして、この提訴を通じて、「奪われた尊厳を取り戻し、業界の因習が改善され、同じように苦しむ人たちがこれ以上増えないための抑止力となるよう、心から願っています」と、個人的な救済を超えた業界全体の変化を強く訴えています。
今回の訴訟は、「昭和の笑い」としてかつては許容されがちだった性的な言動やハラスメントが、もはや現代社会では通用しないことを明確に示す出来事であり、メディア業界におけるコンプライアンスと人権意識の向上を求める声が高まる契機となるでしょう。
[出典] Yahoo!ニュース / FLASH