およそ2600の病院が加盟する日本病院会は、日本の病院の経営状況が極めて厳しいことを明らかにしました。相澤孝夫会長は動画を通じて「病院のおよそ7割が赤字」だと訴え、このままでは「地域医療は崩壊寸前」になるとして、国に対して早急な対策を求めています。日本の病院が直面する赤字経営の実態とその要因、そして今後の見通しについて詳しく見ていきます。
病院赤字の深刻な現状
日本病院会など病院関連の6団体が全国の約1700病院を対象に行った2023年度の経営状況調査(6月から11月)によると、経常利益が赤字の病院は61.2%に上り、補助金などを除いた本来の医療活動による医業利益に限定すると、赤字の病院は69%に達しています。これは、病床を20床以上持つ医療機関である「病院」の大多数が経営難に陥っている現状を示しています。相澤会長は、この赤字幅が年々拡大していると指摘し、強い危機感を示しています。
日本の病院経営の現状、日本病院会会長の訴えを示すグラフィック
赤字経営を招く二つの主要因
病院の赤字経営を招いている主な要因は、「診療報酬」の改定と「物価高」によるコスト増の二点です。
診療報酬は、医療機関が提供する保険医療サービスに対する公定価格であり、病院の主要な収入源です。政府は2年に一度この価格を見直していますが、2024年度の改定では、医療従事者の人件費を増やす部分があった一方で、点滴薬や医療材料などの価格が引き下げられた結果、全体としては0.12%のマイナス改定となりました。これは社会保険財政の逼迫が背景にあるとされていますが、病院経営にとっては収入の伸び悩みに繋がっています。
日本の病院の経営状況、7割が赤字であることと倒産急増の懸念を示すグラフ
一方、近年の急激な物価高は、病院の支出を大きく増加させています。前年の同時期(2022年6月〜11月)と比較すると、2023年6月〜11月にかけて、診療材料費が4.4%増、人件費が4.3%増、病院給食や清掃などの委託費が4.3%増と、様々なコストが上昇しています。
病院の赤字経営を引き起こす要因、診療報酬と物価高を説明する図
加速する病院の倒産・休廃業
病床を持つ「病院」は、病床を持たない「診療所」と比べて、入院設備などの巨額な固定費や多数の職員が必要となるため、経営環境の変化に弱く、コスト増加の影響を受けやすい構造にあります。
このような状況下、すでに経営破綻に至る病院が増加しています。東京商工リサーチの調査によると、2023年に倒産または休廃業した病院は106件に上り、前年の80件から大幅に増加しました。収入である診療報酬が抑制される一方で、物価高によるコストが上昇するという経営バランスの崩れが続けば、今後病院の倒産や休廃業がさらに加速する可能性が指摘されています。
病床を持つ「病院」が直面する、固定費や人件費といった経営上の特徴を示すイラスト
結論
日本病院会が訴えるように、日本の病院の約7割が赤字という状況は、地域における医療提供体制そのものを揺るがしかねない深刻な事態です。診療報酬の抑制と物価高という二重苦に直面し、病院経営は危機に瀕しています。このままでは、地域から医療機関が失われ、必要な医療が受けられなくなる「地域医療の崩壊」が進む懸念が高まっています。国民が安心して医療を受けられる体制を維持するためには、病院経営を持続可能とするための国の喫緊の対策が不可欠です。
出典
Yahoo!ニュース (テレビ朝日系(ANN)) 2024年6月10日掲載記事を元に作成