2025年7月5日、日本に巨大津波が襲来する――。漫画『私が見た未来 完全版』にあるこの予言が、今アジアで波紋を広げ、特に香港や台湾で観光や社会情勢に影響を及ぼしています。科学的根拠のないはずの予言は、なぜこれほど注目され、具体的にどのような影響が出ているのでしょうか。
異例の売れ行きと新たな予言の詳細
2021年に飛鳥新社から刊行された『私が見た未来 完全版』は、累計発行部数100万部を突破するなど異例の売れ行きを見せています。これは、作者たつき諒氏(70)が自身の「予知夢」を漫画化したもので、原著は1999年に出版されました。長く絶版でしたが、原著の表紙にあった「大災害は2011年3月」という記述が東日本大震災を予知していたと話題になり、22年ぶりに再編集・刊行されました。
同著が再び注目を集めるのは、「完全版」で新たに追加された予知夢の内容と、その「予言の日」が迫っているためです。たつき氏は「完全版」のあとがきで、2021年7月に見たという夢に触れています。その夢の内容は、日本とフィリピンの中間あたりの海底が「ボコンと破裂」し、その影響で日本列島の太平洋側に「東日本大震災の実に3倍」とされる巨大な津波が押し寄せるというものでした。夢を見た日付や内容を根拠に、たつき氏はこれが「2025年7月5日」に起こる可能性に言及しています。
たつき諒氏の著書『私が見た未来 完全版』表紙。2025年7月5日の巨大津波予言で話題に。
香港からの観光客減:航空便への影響
この予言に最初に、そして具体的に反応が現れたのが香港です。今年4月、香港のLCCであるグレーターベイ航空は、仙台と徳島を結ぶ香港との定期便を、それぞれ週1往復ずつ減らすと発表しました。同社が2月の春季予約が3割ほど落ち込んだ理由を調査した結果、香港内でこの予言が広く流布していることが一因と突き止めたためです。
他にも、鳥取県の米子空港で香港便の減便が検討されるなど、影響は広がりを見せています。実際に、鳥取県観光戦略課によると、米子空港の香港定期便搭乗率は4月の58.7%に対し、5月は43.3%と大きく落ち込んでいます。徳島県観光誘客課も「4月に現地の旅行代理店に聞いたところ、訪日客が普段より2~3割減っている。全てが予言の影響か測りかねるが、困ったことには違いありません」と、各県の担当者は困惑し、影響を憂慮する言葉を述べています。LCCのような格安航空会社は、需要の変動に敏感に反応するため、こうしたうわさが直接的な行動につながりやすい側面があります。
台湾での不安拡大:『有事』のうわさと備え
台湾では、この予言がさらに現地の実情と結びついて、より複雑な不安を招いています。台湾在住のライター広橋賢蔵氏によると、台湾ではこの巨大地震・津波の予言が、中国による軍事侵攻の契機となる、いわゆる「台湾有事」と結びつけて語られるようになっています。
簡単に言えば、地震による混乱に乗じて中国が攻め入ってくる、といううわさです。特に、予言の日とされる7月5日の前日、7月4日は米国の独立記念日にあたるため、「米国が自国の祝日で手一杯の隙に中国が動くのではないか」「こんな時に米軍が助けに来るか分からない」といった憶測が不安を煽っていると報じられています。
こうした不安の高まりを受け、台湾では緊急時用の備えを急ぐ動きが出ています。長期保存可能な食料品、飲料水、携帯用浄水器、緊急用医療キットなどが入った防災セットが飛ぶように売れており、多くの家庭が「来るべき有事」への備えを急いでいます。広橋氏は、「台湾も地震は多いのですが、何よりいま念頭にあるのは中国の侵攻ですよ」と語り、予言が現実的な安全保障の懸念と結びついている現状を指摘しています。
漫画の一つの予言が、国境を越えて人々の不安を煽り、経済活動にまで影響を及ぼす事態となっています。今回の『私が見た未来』予言による波紋は、インターネットやSNSを通じて情報(あるいはデマ)が瞬時に拡散する現代社会において、科学的根拠のない話がいかに現実世界の経済や人々の心理に影響を与えうるかを示す事例として、改めて注目されています。
[出典] Yahoo!ニュース