1975年に『キスはおあずけ』でデビューし、デビュー50周年を迎えた漫画家・松本洋子氏。80年代から90年代にかけ少女漫画誌『なかよし』で活躍し、ミステリーから背筋も凍るホラーまで、数々の傑作で読者を恐怖の渦に巻き込んできた。夏増刊号や別冊付録が定番だったなかよしホラーにおいて、その存在感は際立つ。今回は、今なお「怖すぎる」と語り継がれる、松本洋子氏のトラウマ級エピソードに焦点を当てる。
読者に強烈なトラウマを残した傑作ホラー
数ある松本洋子作品の中でも、特に多くの読者にトラウマを植え付けたと言われるのが、短編『にんじん大好き！』だ。本作は『なかよし』1993年3月号の別冊付録「魔物語」に収録された作品で、「好き嫌い」をテーマにした衝撃的なホラーである。
多くの読者にトラウマを植え付けた松本洋子氏の短編ホラー『にんじん大好き！』が収録されている、『なかよし』1993年3月号別冊付録「魔物語」の表紙またはページ写真
あの「好き嫌い」エピソードのあらすじ
物語は、にんじんが嫌いなたかしが母親に叱られる日常の一コマから始まる。彼は「にんじんが好きになるようにしてください」と神様に祈る。
翌日、食卓に並んだ料理はすべて葉っぱがついたままの丸ごとにんじんだった。しかし、両親が「ハンバーグ」「カレー」などと言うと、本当にその味がする。たかしは面白がって食べ進め、ついに本物のにんじんも克服する。
だが、次第に犬や鳥までがにんじんに見え始め、不穏な空気が漂い始める。そしてある朝、たかしの目の前に巨大なにんじんが現れる。それは未だかつてない美味しさで、たかしは夢中で食べ尽くした。
その後、リビングで新聞を読む巨大なにんじんを見かけるが、それが父親だと気づく。つまり、先ほど食べたのは母親だったのだ。そして描かれるのは、血にまみれ絶命する母親の姿だった。
ほんわか展開からの転落、そして真の恐怖
本作の恐ろしさは、前半の家庭的な雰囲気と、最後の最後に訪れるグロテスクな結末との強烈なギャップにある。白目をむき、内臓を引きずり出された母親の姿は、読者に拭い去れないトラウマを刻み込んだ。
しかし、それ以上に読者を戦慄させたのは、たかしが満面の笑みで「こんなにおいしいものがあったんだ！」と喜びながら、実の母親を食べていたという事実だろう。
子ども向けの「なかよし」という雑誌に、このような倫理的に問題のある、そしてあまりにもショッキングな描写の作品が掲載されたこと自体が異例であり、別冊付録という特殊な形態だからこそ生まれた傑作（怪作？）と言えるかもしれない。
『にんじん大好き！』は、松本洋子氏が「なかよし」で描いたホラー作品の中でも、その衝撃的な内容とグロテスクな描写で、多くの読者に強烈なトラウマを植え付けた一作だ。ほんわかした導入から一転、狂気と恐怖へ転落する展開、そしてあまりにも残酷な結末は、今なお語り継がれている。子ども向け雑誌の別冊付録だからこそ生まれた、日本のホラー漫画史に残るエピソードと言えるだろう。
出典：https://news.yahoo.co.jp/articles/3c578d6322e36557f4ddb38382c008e3fb830d09
