男女間の関係構築は、時にささいな衝突がきっかけで破綻へと向かうことがあります。これは、二人が「本当に話すべきこと」を避けてきた可能性を示唆しています。良好で強固なパートナーシップを築き、維持するためには、ある種の「努力」や「コツ」が不可欠です。臨床心理士の平木典子氏と明治学院大学心理学部教授の野末武義氏の共著『大切な人とうまくいく「アサーション」』は、そのための具体的な秘訣を提示しています。本記事では、その中でも特に重要とされる「観察」の力に焦点を当てて解説します。
良好な関係に必要な4つの要素
パートナーシップに限らず、すべての人間関係を円滑に進めるためには、以下の4つの要素を日常生活に取り入れることが鍵となります。
- 観察(Observe): 相手を注意深く見る、気づく。
- 想像(Imagine): 相手の立場や気持ちを推し量る。
- 聴く(Listen): 相手の話や声に耳を傾け、理解しようとする。
- 伝える(Communicate): 自分の考えや気持ちを適切に表現する。
これらの要素が実践できていれば、たとえ意見の対立やケンカがあっても、互いの意見を尊重し合いながら、円満な関係を築くことができるでしょう。特に最初のステップである「観察」は、相手を理解する上での基盤となります。
良好なパートナーシップ構築を目指す男女のイメージ
「がっぷり四つ」では相手は見えない – 近すぎるゆえの盲点
最も身近な存在であるパートナーのことが、一番わからなくなることがあります。これは、「近いからこそ見えていない」「近い相手こそ見えづらい」というパラドックスを示しています。
ある精神科医のエピソードに、この点が明確に表れています。若い医師が患者との面接後、「患者さんとがっぷり四つに組んで面接してきました」と報告した際、ベテラン医師は「そんなことをしたら、相手のことが見えないじゃないか!」と諭したといいます。「がっぷり四つ」とは、相手に深く入り込みすぎたり、自分の視点に囚われたりする状態です。この状態では、相手全体やその背景を冷静に「観察」することが難しくなります。
日常生活で見落としがちなパートナーのサイン
この「がっぷり四つ」の落とし穴は、パートナーとの関係でも同様に起こります。毎日一緒に暮らしていると、相手の存在や言動が「当たり前」になりがちです。その結果、最もよく知っていると思っている相手を、実は「きちんと見ていない」という事態が生じ得ます。
「一緒にいる間は、相手のことしか見ていません」と語る人ほど、意識的に「観察」の姿勢を心がける必要があります。これは、相手の細かな変化や、普段とは違う様子、言葉にならないサインなどに気づく努力です。表面的な言動だけでなく、その背景にある感情や状況を推察するための第一歩が、この「観察」なのです。
まとめ
良好なパートナーシップを築くためには、意図的な努力と具体的なスキルが必要です。「観察」「想像」「聴く」「伝える」の4つの要素は、そのために欠かせません。特に「観察」は、身近すぎる存在であるがゆえに見落としがちなパートナーの真の姿を捉えるための最初の、そして最も重要なステップです。日々の生活の中でパートナーを「当たり前」と思わず、意識的に「観察」することで、関係をより深く、より強固なものへと育てていくことができるでしょう。
参考文献
- 平木典子, 野末武義 著『大切な人とうまくいく「アサーション」』三笠書房
- https://news.yahoo.co.jp/articles/5f4283982ffdad7e75ffefb7641eaf4d30a46332