東京・新宿の路上で覚醒剤を隠し持っていたとして、難民認定申請中で仮放免中のクルド人の男が覚醒剤取締法違反(所持)容疑で警視庁新宿署に現行犯逮捕され、その後起訴されていたことが11日、捜査関係者への取材で明らかになった。この男は、入管施設への収容を巡り、国を相手取った複数の国家賠償請求訴訟を起こしていることで、支援者などの間で知られていた人物だった。
捜査関係者によると、逮捕・起訴されたのはトルコ国籍のクルド人、デニズ・イェンギン被告(46)である。デニズ被告は5月12日、東京都新宿区内の路上において、覚醒剤1袋を所持していた疑いで現行犯逮捕された。その後、6月2日には覚醒剤取締法違反の罪で起訴されている。
逮捕のきっかけは「白い粉を外国人から見せられた」という内容の通報だった。通報を受けた警察官が現場に駆けつけたところ、一人でいたデニズ被告を発見し、職務質問を経て覚醒剤所持の現行犯で逮捕に至ったという。逮捕時、デニズ被告は「これは私のものじゃない」「あなたたちのわなだ」などと容疑を否認する発言をしたが、その後の取り調べに対しては黙秘しているとされる。
デニズ被告は十数年前にトルコから来日。難民申請が認められない状況が続き、入管施設への収容と、一時的に収容が解かれる仮放免を繰り返してきた。日本人女性と結婚しており、これを理由に日本での定住を求めていた。
この間、入管施設内で抗議のハンガーストライキを行った経緯もある。さらに、令和4年1月には、入管施設での長期収容が国際人権規約に反すると主張し、国に対し損害賠償を求める訴訟を東京地裁に提起している。この訴訟は現在も係争中で、今月17日に判決が言い渡される予定となっている。
覚醒剤事件の捜査に関連する警視庁新宿署の警察官
また、過去には別の国家賠償請求訴訟で勝訴した経験もある。令和5年4月には、入管施設内で暴行を受けたとする訴えに対し、東京地裁が国に22万円の支払いを命じる判決を言い渡している。この判決を受けて行われた記者会見の場では、「入管は(収容者を)人間扱いしていない」と入管側の対応を厳しく批判していた。
国家賠償請求訴訟に関する記者会見でのデニズ・イェンギン被告
長年にわたり、自身の入管問題や人権に関する訴訟を通じて注目されてきた人物が、全く異なる性質の犯罪である覚醒剤所持容疑で逮捕・起訴された今回の事態は、関係者の間に波紋を広げている。特に、重要な国家賠償訴訟の判決を目前に控えていた最中の出来事であり、今後の法的な展開や、難民申請・仮放免制度、さらには入管施設のあり方に関する議論に影響を与える可能性も指摘されている。