石丸伸二と「再生の道」 賞味期限切れか?新しい政治の潮流を読む

現代日本社会における政治参加の様式が、ソーシャルメディアの浸透を媒介として新たな局面を迎えていることは多くの人が認識している。既存の政党組織や伝統的メディアの権威が相対的に低下する一方、有権者はSNSや動画配信を通じて政党や政治家が発信する政治情報に直接アクセスし、個々の政治家と擬似的な関係性を構築するようになりつつある。このような潮流が決定的な形で可視化されたのが2024年の東京都知事選挙であり、一つの顕著な例が前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏の動向である。

街頭演説で聴衆に語りかける石丸伸二氏(2024年6月6日、東京・有楽町)街頭演説で聴衆に語りかける石丸伸二氏(2024年6月6日、東京・有楽町)

主要政党の支援を受けることなく、石丸氏が約165万票を獲得し、無所属ながら既存野党の支持を取り付けた蓮舫氏を上回って次点につけた事実は、それが2010年代からの様々な政治的挑戦の延長線上にあると捉えられるとしても、永田町の力学や常識では簡単には説明のつかない地殻変動の始まりを予感させた。この選挙で示された巨大な民意を背景に、石丸氏が2025年夏の東京都議会議員選挙を見据えて設立したのが地域政党「再生の道」だった。その政治的実践は、2020年代の動画時代における新しい政治活動の象徴的存在になるかに思われた。

しかしその一方で、既に「賞味期限切れ」という声も出されている。情勢調査の結果が低調であることや、少なくとも本稿執筆時点における石丸氏の活動量の少なさ(か、報道などからあまり伝わってこなかった現状)を受けてのことと考えられる。この相反する見立てをどのように受け止めるべきだろうか。本稿は、こうした問題意識から、政治活動として行われた6月9日(日)の「再生の道」のJR蒲田駅西口前における一日の締めくくりの街頭演説を見に行った記録を記す。

新しい政治活動の可能性と課題

石丸伸二氏の東京都知事選挙における戦い方は、既存の選挙運動とは一線を画していた。テレビなどのマスメディアへの露出は限定的でありながら、YouTubeなどの動画プラットフォームやSNSを駆使し、自身の政策や考え方を直接有権者に訴えかけるスタイルをとった。これは、若い世代を中心に既存メディアから情報収集しない層に響き、伝統的な組織票に依存しない支持層を掘り起こすことに成功したと言える。この「新しい政治活動」のモデルは、今後の日本の政治において重要な示唆を与えるものとして注目されている。

地域政党「再生の道」の船出

東京都知事選挙での勢いを背景に設立された「再生の道」は、2025年の都議会議員選挙に候補者を擁立することを目指している。これは、草の根レベルから政治を変えていこうという意欲の表れであり、都政という具体的なフィールドで新しい政治の形を実践しようという試みである。既存政党に対する不満や閉塞感を持つ層からの期待は大きいが、地域政党として組織を拡大し、候補者を発掘・育成し、都議会という場で影響力を行使していくためには、多くの困難が伴うことは想像に難くない。

「賞味期限切れ」論の背景

一部で囁かれる「賞味期限切れ」という見方は、主に二つの点に基づいていると考えられる。一つは、都知事選直後の高い注目度や期待感と比較して、その後のメディア露出や具体的な活動が少ないように見えること。もう一つは、各種情勢調査で「再生の道」や石丸氏個人の支持率が伸び悩んでいるとされる点である。選挙期間中の熱狂が落ち着き、日々の地道な政治活動や組織づくりが求められる段階に入ったことで、一時的なブームと捉える向きも出てきているのかもしれない。しかし、新しい政治の形は短期的な成果ではなく、中長期的な視点で評価されるべきである。

地域政党「再生の道」石丸伸二氏の街頭演説開始前のJR蒲田駅西口周辺地域政党「再生の道」石丸伸二氏の街頭演説開始前のJR蒲田駅西口周辺

蒲田駅前街頭演説の光景

2024年6月9日に行われたJR蒲田駅西口前での「再生の道」の街頭演説は、この時点での彼らの活動の一端を示すものだった。演説開始前は閑散としていた駅前が、時間が経つにつれて多くの聴衆で埋め尽くされていった光景は、都知事選で示された石丸氏への関心の高さを改めて感じさせるものだった。参加者の多くは熱心に耳を傾け、質疑応答の時間には活発なやり取りが見られた。この現場での体験は、数字上の情勢調査だけでは測れない、新しい政治に対する人々の期待や関心が確かに存在することを示唆していた。

まとめ

石丸伸二氏と彼が率いる地域政党「再生の道」は、ソーシャルメディア時代における新しい政治参加の形を提示し、日本の政治に一石を投じた。東京都知事選挙での得票は、既存政治への強いメッセージであり、その後の「再生の道」設立へと繋がった。一方で、「賞味期限切れ」といった厳しい見方もある。しかし、蒲田駅での街頭演説の光景が示すように、彼らに対する関心と期待は依然として高い。新しい政治活動は、その性質上、伝統的な評価軸には馴染みにくい側面もある。2025年の都議会議員選挙に向けた彼らの今後の活動は、新しい政治が日本社会に根付くかどうかの重要な試金石となるだろう。短期的な評価に囚われず、その試みがもたらす中長期的な変化と可能性を注視していく必要がある。

【本稿執筆にあたり、筆者と石丸氏のあいだに、先日共著『日本再生の道』(幻冬舎)を出版した利益関係性があることを記しておく。】

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