公開中のドキュメンタリー映画「草間彌生∞INFINITY」は、前衛芸術家、草間彌生(90)が世界的な名声を得るまでの軌跡を描いた根性の物語。1957(昭和32)年に渡米後、女性や東洋人への差別の壁を乗り越え、不屈の闘志で作品を発表していく草間の生き方は泥臭くも、すがすがしい。米国のヘザー・レンズ監督は「若い芸術家に勇気を与えたかった」と意義を強調した。(WEB編集チーム 高橋天地)
自由に描きたい
草間は1929年、長野県松本市の旧家に生まれ、28歳のとき、家族の反対を押し切り自由な芸術活動を求めて渡米した。58年からニューヨークを拠点に絵画作品を発表。59年、網の目がキャンバスいっぱいに広がる抽象絵画「無限の網」で注目を集めた。
自身の頭に次々と浮かぶという水玉のデザインも草間の特徴の一つだ。関心は絵画にとどまらず、柔らかな彫刻を意味するソフト・スカルプチュア、鏡や電飾を用いた環境彫刻など革新的な作品を生み出していった。
レンズ監督は90年代初頭、大学で美術史を学んでいたとき、草間の存在を初めて知った。「緻密に描かれた水玉や網の目のデザインは無限の宇宙を想起させ目に焼き付いた。同時に芸術に命をかける草間の執念も強烈に伝わってきた」
疑問も抱いた。15年に及ぶ米国での創作活動で、なぜ草間は評価を得られなかったのか。レンズ監督は「渡米時代はまさに草間の歴史の空白。いつかそんな問いに答えるドキュメンタリーを作り、草間を広く知ってもらおう」と考えた。