複数の人と恋愛関係を結ぶ「ポリアモリー」は、「人間は対であるべき」という社会の固定観念や不寛容さによって苦悩を強いられることがある。今期、こうしたポリアモリーを巡る軋轢を描くドラマとして注目されるのが、日本テレビ系で放送中の「彼女がそれも愛と呼ぶなら」だ。「三人夫婦」など、複数恋愛をテーマにした作品が増える背景には、当たり前とされる価値観への問いかけがあると言えるだろう。本作は、成熟した大人の新しいライフスタイルとしてのポリアモリーの可能性と、それに伴う現実的な課題を浮き彫りにしている。
ドラマ概要と主要登場人物
この物語の主人公は、ポリアモリストであり高校生の娘を持つシングルマザー、水野伊麻(栗山千明)である。彼女には現在3人の恋人がいる。イタリアンバル経営者の風間到(丸山智己)は離婚経験者で穏やかな大人の魅力を持つ。美容メーカー営業の空久保亜夫(千賀健永)は明るいムードメーカーだ。そして新しく加わった生物学専攻の大学院生、小森氷雨(伊藤健太郎)。彼ら5人は共に暮らすという設定の中で、物語は展開していく。成熟した関係を築いている到や亜夫に対し、新参者の氷雨はまだ複数恋愛に慣れず、独占欲や嫉妬心に苦しむ場面も見られる。
ドラマ『彼女がそれも愛と呼ぶなら』で主人公・伊麻を演じる栗山千明
ポリアモリーへの「ハレーション」と社会の視線
伊麻の選択は、彼女の周囲に様々な波紋を広げる。娘の千夏(小宮山莉渚)は、学校で母親の恋愛関係について噂され、従来の「普通」の恋愛観に疑問を抱く。彼女自身にできた彼氏、藤島太呂(竹野世梛)は、支配的で干渉が激しく、さらには同意のない接触を要求するなど、歪んだ関係性を見せる。また、恋人の一人である氷雨の両親、特に父の不倫で離婚した過去を持つ母(黒沢あすか)は、伊麻たちの複数恋愛による同居を全く理解できず、激しい衝突が生じる。このように、ドラマ内では伊麻のポリアモリーが、世間の目や様々な人間関係の中で「ハレーション」を引き起こす様子が繰り返し描かれる。複数恋愛という生き方が、既存の価値観といかに摩擦を生むかが示唆される。
日本テレビ系ドラマ『彼女がそれも愛と呼ぶなら』の番組タイトルロゴ
もう一つの「愛」の形:不倫の物語
このドラマには、ポリアモリーの物語と並行して、もう一つの対照的な「愛」の物語が描かれる。それは、伊麻の元同級生である主婦、篠木絹香(徳永えり)の苦悩だ。言葉の暴力(モラハラ)を振るう夫、真人(夙川アトム)に耐える日々の中、夫の9年に及ぶ部下(西原亜希)との不倫が発覚する。絶望した絹香は、剥製職人の針生永人(淵上泰史)と出会い、恋に落ちる。しかし、不安定になった娘(並木彩華)を案じ、改心したかに見える夫に情が移り、この新たな恋を封印しようとする。ある意味ドライで合理的な側面を持つポリアモリーに対し、ウェットで複雑な感情や社会的な縛りが絡む不倫の行方が、観る者に問いを投げかける。
「彼女がそれも愛と呼ぶなら」は、ポリアモリーという現代的なテーマを通して、人々の多様な生き方や価値観、そしてそれに抗う社会の不寛容さを描き出す。一方で、従来の不倫という形での関係性も同時に提示することで、「愛」や「家族」、そして「幸せ」の定義について深く考えさせる作品となっている。吉田潮氏の評論が指摘するように、一粒で二度美味しい、多層的な視点を提供するドラマである。
出典:週刊新潮 2025年6月12日号掲載記事