安住紳一郎アナが指摘したテレビ「衝撃映像」問題~フェイク映像氾濫とメディアの責任

6月5日、TBSの朝の情報番組「THE TIME,」で、司会の安住紳一郎アナウンサーが発したある指摘がテレビ業界内で波紋を広げている。この発言は、番組が過去に放送した特定の映像の真偽に関するものであり、昨今増加している「衝撃映像」番組の問題点に光を当てる形となった。

問題となったのは、「THE TIME,」が6月2日に放送した、中国人パラグライダーが積乱雲に巻き込まれ高度8500メートルまで上昇しながら奇跡的に生還したというニュース映像だ。この映像は中国メディアが最初に報じ、世界中で大きな話題となっていた。

安住アナウンサーは、その後の放送でこの映像にフェイク疑惑が持ち上がっていることを紹介した。オーストラリアのメディアが、ヘルメットの色が途中で白から黒に変わっている点や、男性の足元がハーネス着用時と何も着けていない状態で映っている点が不自然だと指摘していることに言及した。

そして、安住アナウンサーは「この番組は誰もフェイクとは疑っていませんでした!ここに、この番組の問題点がありますっ!」と、自らが司会を務める番組の姿勢を厳しく批判した。スタジオの共演者は驚きの声を上げたものの、場の雰囲気は比較的穏やかだったという。しかし、ある民放プロデューサーは、この安住アナウンサーの発言が業界内で「ちょっとドキッとしました」と語った。

テレビを賑わす「衝撃映像」のブーム

このプロデューサーが指摘するように、「衝撃映像」は現在、テレビ業界で一種のブームとなっている。局を問わず頻繁に特番が組まれるほか、通常の情報番組や報道番組でもこうした映像が取り扱われる機会が増えているのだ。

実際、「THE TIME,」で問題となった中国人パラグライダーの映像は、フジテレビの夕方の報道番組「Live News イット!」でも取り上げられていた。「イット!」は5月29日にまず「奇跡の生還」としてこの映像を紹介したが、その後6月4日にはフェイク疑惑についても報じた。「THE TIME,」よりも早くこの疑惑に触れていたことになる。

「イット!」はさらに、国立情報学研究所の越前功教授に取材を行い、問題の映像が「AIで生成された可能性がある」とのコメントを引き出した。越前教授はメディアに対し、「映像を鵜呑みにするのではなく、他の状況証拠や他の組織の見解、他の人のコメントなどを総合的に判断する必要が生じている」と、映像検証の重要性を警告した。

しかし、このような専門家の警鐘にもかかわらず、衝撃映像を紹介する番組は増え続けているのが現状だ。6月4日にはTBSで「衝撃映像100連発★日本は安全で良かった〜SP」が放送されたばかり。改編期には、テレビ東京の「最強! 衝撃映像141連発 スタッフが2729本見た中から選ぶ動画ランキング」や、フジテレビの「危機一髪! 衝撃映像SP 世界の爆笑おマヌケ&動物&大爆発! 奇跡の瞬間95連発!」、テレビ朝日の「徹子&純次&良純の世界衝撃映像の会」といった特番が各局で放送されている。

テレビ番組「THE TIME,」にて発言するTBSアナウンサーの安住紳一郎氏テレビ番組「THE TIME,」にて発言するTBSアナウンサーの安住紳一郎氏

フェイクと真実の境界線

ソーシャルメディアなどで真偽不明の映像が容易に手に入り、AI技術によって精巧なフェイク映像が生成可能となった現在、テレビメディアによる映像の検証はかつてないほど重要になっている。手軽に視聴者の関心を引くことができる「衝撃映像」は番組制作者にとって魅力的かもしれないが、その裏には誤情報拡散のリスクが潜んでいる。

AIによって生成された可能性が指摘されるフェイク映像のイメージAIによって生成された可能性が指摘されるフェイク映像のイメージ

安住アナウンサーの自己批判とも取れる今回の発言は、テレビ業界全体が向き合うべき、映像の真偽確認と報道倫理の課題を改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。視聴者はテレビに対して情報の正確性を求めている。安易な「衝撃映像」の多用は、メディアへの信頼失墜につながりかねない重要な問題提起である。

【参考資料】
https://news.yahoo.co.jp/articles/911e4880af8a7042d0ee683334f27585f0ee9df7