「チー牛」という言葉は、インターネット上で特定の人物像や「陰キャ」(陰気な雰囲気の人)を指す際にしばしば使われるネットミームです。この言葉の元となったのは、一枚のイラスト。メガネをかけた控えめな若い男性が「すいません。三色チーズ牛丼の特盛りに温玉付きをお願いします」と注文する様子を描いたものです。そのイラストの作者である、いびりょさん(@ibiryo_sun)に、イラスト誕生の経緯と、それがネット上で広く拡散されたことへの思いを聞きました。
ネットミーム「チー牛」イラスト作者、いびりょさんの2008年と最近の自画像を比較した画像。左が若い頃の自画像、右が現在の自画像。
チー牛イラスト誕生の背景
現在35歳のいびりょさんは、高校卒業直後の2008年にこのイラストをブログに投稿しました。絵を描くのが好きで、ミュージシャンの山崎まさよしさんが自画像をアルバムジャケットに使っていたことに触発され、自分も描いてみようと思ったと言います。
あの「三色チーズ牛丼」のセリフは、通学途中に電車を待つ間によく立ち寄っていた牛丼店での日常的な注文を自分と結びつけて生まれた、まさに彼自身の日常の一コマでした。
2008年はインターネットが広く普及し始め、mixiなどのSNS、YouTubeやニコニコ動画が勢いを増していました。個人ブログも人気で、いびりょさんも毎日1枚、自身のブログにイラストを投稿していました。
「チー牛」のイラストもその中の1枚として、ブログの片隅にひっそりと置かれていました。当時のブログ読者は身近な10人程度で、このイラストがこれほど多くの人に知られることになるとは、投稿した当時は全く予想していなかったと言います。
ネットミームとしての拡散と作者の受け止め
それから約10年後の2018年頃、事態は思わぬ方向へ動きます。匿名掲示板「5ちゃんねる」で、いびりょさんのイラストが頻繁に貼り付けられ始めました。特定の人物像や「陰キャ」イメージを表すものとして、広く多用されるようになったのです。
2019年12月には、コミックマーケットにイラストの男性に似せた「チーズ牛丼の男性」のコスプレが登場するなど、現実世界にも飛び火しました。2020年春にはいびりょさんのSNSアカウントのフォロワーが急増するなど、イラストの認知度は飛躍的に高まりました。
自身の描いたイラストがネットミームとしてこれほど広まったことについて、いびりょさんは「びっくりしましたが、言われてみれば、掲示板に書いてある通り、たしかに垢抜けてないなあと。そのときはそんなふうに流していました」と、驚きとともに冷静な受け止めを語っています。
日常の一コマから生まれたささやかなイラストが、時を経てインターネット文化の一部となり「チー牛」ミームへと発展しました。作者いびりょさんは、予期せぬ広がりを驚きつつも受け止めているようです。
[出典] 弁護士ドットコムニュース (https://news.yahoo.co.jp/articles/3a972fc39184c866bd6a5610252e73001c6f2188)