ウリケ・シェーデ教授が語る「失われた30年」の真実:日本の「安定」こそ強み

米カリフォルニア大学サンディエゴ校教授で、日本企業研究の専門家であるウリケ・シェーデ氏は、「失われた30年」という日本経済の一般的な評価に異を唱えます。彼女は、日本が貿易摩擦下でもレジリエンス(強靭性)を発揮しており、その独自の戦略に「強み」があると言います。多くの日本人が抱く悲観的な見方に対し、シェーデ氏は日本社会は停滞しているわけではないと主張します。

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日本の悲観論と外部からの視点

ドイツ出身で米国に住むシェーデ教授は、来日するたびに、日本人自身の「日本はダメだ、希望がない」という認識と実際の日本の姿との間に大きなギャップを感じると語ります。人口減少や高齢化、経済成長の鈍化、財政問題など、日本が多くの課題を抱えていることは事実ながら、これらは他の多くの先進国も同様に直面している課題です。しかし、東京のような大規模都市の快適さ、清潔さ、そして安全性の高さは世界でも稀有です。日本全体で見ても、充実した医療制度による国民の健康状態の良さ、そして経済格差が比較的穏やかで治安や社会秩序が良好に保たれているといった日本の優れた点は、しばしば見過ごされています。

見過ごされがちな日本の経済力

人口世界12位に対し、日本のGDPはいまだ世界第4位です。さらに重要なのは、多くの日本企業が海外生産ネットワークを急速に拡大している事実です。これらの海外での活動はGDPの計算には完全には含まれていませんが、日本企業のグローバルな影響力と経済的な「強靭性」(レジリエンス)を示すものです。「失われた30年」という言葉が示すような深刻な停滞があったならば、現在の日本社会のような魅力的な状態は維持できなかったはずだと、シェーデ教授は強く主張します。

「スピード」より「安定」を選んだ日本の戦略

日本の経済や社会が着実に変化を遂げていることは間違いありませんが、その変化のスピードはゆっくりです。シェーデ教授は、これは日本が「スピード」を犠牲にして「安定」を選んだ結果であり、日本のリーダーたちが意図的に「変化に時間をかけること」を選択した、日本社会の好みを反映したものであると分析します。「スピード」よりも「安定」を重視するアプローチは、確かに長期的な低成長につながります。しかし、その引き換えに、比較的平等な社会、低い失業率という大きな成果を得ています。したがって、「遅さ」は日本経済の弱みではなく、むしろ社会全体の安定を保つための「強み」なのです。

ウリケ・シェーデ教授の分析は、「失われた30年」という定説に一石を投じます。日本の経済や社会は、劇的なスピードではなく、「安定」を最優先する形で着実に進化してきました。人口減少や高齢化といった課題は存在するものの、質の高い社会システム、経済力、そして社会秩序を維持している日本の姿は、多くの先進国が学ぶべき「強靭性」を示していると言えるでしょう。日本の未来に対する悲観論にとらわれず、その独自の「安定」戦略が生み出す真の強みに目を向ける視点を提供してくれます。