数年前までNHKのドラマといえば朝ドラと大河ドラマが中心でしたが、近年はその看板枠が視聴者の厳しい目にさらされ、制作側の難しさが増しています。一方で、火曜22時台に放送される「ドラマ10」枠が急速に支持を集め、「ハズレなし」と評されるほどの絶好調ぶりを見せています。一体なぜ、「ドラマ10」はこれほど成功を収めているのでしょうか。テレビ解説者の木村隆志氏の分析をもとに、その理由を深掘りします。
NHKドラマ10で放送される新ドラマ「舟を編む」の場面写真
「ドラマ10」の歴史と視聴者の混乱
「ドラマ10」枠は実質的に2010年にスタートしました。初期には『八日目の蝉』や社会現象にもなった『セカンドバージン』が話題となり、枠の認知度を高めました。その後も2013年には上戸彩と飯島直子が元服役囚を演じた『いつか陽のあたる場所で』、2014年には原田知世が1億円を着服する主婦を演じた『紙の月』など、時折話題作を放送し、「主婦層向け」というイメージがドラマフリークを中心に定着し始めます。
しかし2016年にNHKは「ドラマ10」を金曜22時台へ移動。これにより視聴者に混乱が生じました。2017年の『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』、2018年の『透明なゆりかご』、2019年の『トクサツガガガ』など、週末放送らしい多様なジャンルを扱い、話題性よりも質の高さを押し出す作品が増えた一方で、同じ時間帯の民放ドラマ「金曜ドラマ」(TBS系)に視聴率や話題性で差をつけられ、「知る人ぞ知る枠」となってしまった感がありました。この状況を受け、NHKは2022年に火曜22時台への復帰を決断。ここから『正直不動産』、『拾われた男 LOST MAN FOUND』、『大奥(Season1)』、『しずかちゃんとパパ』、『大奥(Season2)』、『正直不動産2』、『燕は戻ってこない』、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』、『宙わたる教室』、『東京サラダボウル』、『幸せは食べて寝て待て』など、質の高い作品を続けてジワジワと支持を伸ばしてきました。
好調を支える「原作もの」戦略とシリーズ化
「ドラマ10」枠の好調の大きな要因は、オリジナル作品が少なく、そのほとんどが漫画や小説を原作としている点にあります。これは火曜22時復帰以降、特に顕著です。漫画原作では『正直不動産』『大奥』シリーズ、『東京サラダボウル』、『幸せは食べて寝て待て』、小説原作では『育休刑事』、『悪女について』、『満天のゴール』、『天使の耳~交通警察の夜』、『燕は戻ってこない』、『宙わたる教室』などが放送されました。また、『拾われた男 LOST MAN FOUND』や『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』といった自伝的エッセイを原作とした作品も取り入れています。
NHKドラマ10の人気シリーズ「正直不動産」に出演するディーン・フジオカ
これは、放送収入の低下からオリジナル企画を重視し、映画やスピンオフ、配信、イベント、グッズなど、IPビジネスでの収益化を図る民放の戦略とは対照的です。「ドラマ10」は、多岐にわたるジャンル、テーマ、舞台の漫画・小説を狙いすましたかのようにドラマ化。たとえば、定時制高校の科学部が起こす奇跡を描いた『宙わたる教室』、外国人の事件をフィーチャーした刑事ドラマ『東京サラダボウル』、膠原病の主人公が薬膳との出会いで変わっていく姿を描いた『しあわせは食べて寝て待て』など、近年の3クールは視聴率獲得が難しそうで「民放では企画が通らない」であろう作品が続いています。
さらに、『正直不動産』と『大奥』のように、早い段階で続編が制作される「シリーズ化ベース」の体制も支持を集める理由です。これは視聴率次第で続編が決まる民放とは異なり、当初からシリーズを見越した制作が可能であり、続編の早期実現はファンにとって最高のサービスとなり、「ドラマ10」自体のブランド向上に貢献しています。
結論
NHKの「ドラマ10」枠は、過去の歴史と変遷を経て、現在は原作を活かした多様な題材選びと、戦略的なシリーズ化によって独自の地位を確立しました。朝ドラや大河ドラマが抱える難しさが増す中で、「ドラマ10」は質の高い作品を提供し続け、NHKドラマ全体の成功を支える重要な存在となっています。
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