騒動が冷めやらぬフジテレビにおいて、会社が多大な損害を被ったとされる事態を巡り、港浩一前社長(73歳)と大多亮元専務(66歳)に対し、訴訟の準備に入ったことが発表された。この訴訟は、いわゆる「中居問題」に端を発する損害賠償請求と見られている。過去に旧経営陣が会社から訴えられた事例に照らすならば、今回提訴される可能性が高い両氏を待ち受ける前途は、極めて厳しいものとなる可能性が高い。一方で、この動きは世間に対し「新生フジテレビ」を強くアピールするための「生け贄」ではないかとの見方もある。本稿では、「週刊新潮」2025年6月19日号の特集記事を基に、この訴訟の背景、旧経営陣が直面するであろう「訴訟地獄」の実態、そしてその着地点について深掘りする。
フジテレビが今回、前社長と元専務という旧経営陣に対し法的措置の準備に入ったという発表は、業界内外に大きな衝撃を与えている。これは、会社が特定の事象によって蒙った具体的な損害に対し、当時の経営陣にその責任を追及するという明確な意思表示に他ならない。提訴の根拠とされる「中居問題」の詳細は公にはされていないものの、これが会社経営に看過できないレベルの損害をもたらしたとフジテレビ側は判断している。
一般的に、企業が旧経営陣を訴えるケースは決して多くはない。しかし、会社に重大な損害を与えた経営判断や行動があった場合、特に株主代表訴訟などの形で責任が問われることがある。今回のフジテレビのケースは、会社自身が旧経営陣を訴えるという形であり、これは会社法に基づく損害賠償請求訴訟となる準備が進められていると見られる。会社が自ら経営責任を追及するという姿勢は、社内外へのメッセージ性が極めて強い。
企業経営において、経営者の善管注意義務違反や忠実義務違反によって会社に損害を与えた場合、会社に対してその損害を賠償する責任が生じる可能性がある。過去には、経営判断の失敗や不適切な行為が原因で、旧経営陣に対し巨額の損害賠償を命じる判決が出された例も存在する。例えば、特定の取引における損失や、法令違反による制裁金など、その原因は多岐にわたる。訴訟が提起されれば、港氏と大多氏は「中居問題」における自らの関与や判断が適切であったかどうか、そしてそれが会社に与えた損害について、法廷の場で詳細な検証を受けることになる。訴訟のプロセスは長期に及ぶことが多く、被告にとっては精神的、経済的に大きな負担となる「訴訟地獄」と形容される状況に陥りやすい。
過去の経営責任を巡る訴訟の例では、会社が旧経営陣に対して数百億円規模の損害賠償を求めたケースも存在する。仮に、フジテレビが「中居問題」で蒙った損害額を数億円、あるいはそれ以上に算定し、その全額または一部の賠償を求めるとすれば、その金額は港氏や大多氏個人の資産で賄えるレベルをはるかに超える可能性がある。法廷で会社側の主張が認められれば、経営責任を果たさなかったとして、個人資産の差し押さえを含む厳しい状況に直面する可能性も否定できない。このような前例があるからこそ、今回のフジテレビによる提訴準備は、両氏にとって「あまりにも多難な前途」と評されるのである。
フジテレビが「中居問題」に絡む損害賠償請求で提訴準備を発表した港浩一前社長と大多亮元専務の肖像
今回の提訴準備発表の背景には、「新生フジテレビ」としてのイメージ刷新を図る狙いがあるという見方もある。長らく視聴率の低迷や不祥事などが指摘されてきたフジテレビにとって、旧体制下で発生した問題に対し、現経営陣が厳正な姿勢で臨むことを示すことで、企業統治(コーポレートガバナンス)の強化や透明性の向上をアピールしたい意図があるのかもしれない。旧経営陣を「生け贄」とすることで、過去との決別と未来への変革を印象付けようとしているという分析も成り立つ。
しかし、「訴訟地獄」の着地点がどこになるかは不透明だ。訴訟は長期化し、会社の時間やコストを浪費するリスクも伴う。また、法廷での争いが、会社にとって都合の悪い事実や内部事情を白日の下に晒す可能性も孕んでいる。和解という形で早期終結を図る可能性もゼロではないが、会社側が「多大な損害」と位置づけている以上、納得のいく金額や条件での和解に至るには困難が伴うだろう。港氏と大多氏が会社側の主張を争う姿勢を見せれば、泥沼の法廷闘争となることも予想される。
結論として、フジテレビによる旧経営陣への提訴準備は、「中居問題」による損害への責任追及という側面だけでなく、「新生フジテレビ」を世間にアピールする戦略の一環としても捉えることができる。過去の経営責任訴訟の厳しい前例に照らせば、提訴されれば港氏と大多氏は非常に困難な状況に追い込まれるだろう。しかし、訴訟の行方は複雑であり、会社にとってもリスクがないわけではない。「訴訟地獄」の最終的な着地点がどこになるのか、今後の法廷での攻防が注目される。
参考資料
週刊新潮 2025年6月19日号 特集記事「新生『フジテレビ』を猛アピール 港前社長と大多元専務を待つ“訴訟地獄”の着地点」