『波うららかに、めおと日和』が描く、昭和初期夫婦の「ムズキュン」と独自の魅力

木曜の夜の癒しとして親しまれてきた『波うららかに、めおと日和』も残すところあとわずかとなった。多くの視聴者が筆者と同じように、終わってほしくないと願っていることだろう。当初、互いの考えが読めないぎこちない関係から始まったなつ美(芳根京子)と瀧昌(本田響矢)の道のりは、穏やかに距離を縮めていった。

波うららかに、めおと日和のメインビジュアル。主演の芳根京子と本田響矢が夫婦役で並ぶ。波うららかに、めおと日和のメインビジュアル。主演の芳根京子と本田響矢が夫婦役で並ぶ。

関係性の深まりと役者の表現

回を追うごとに、なつ美と瀧昌の関係は親密に。第3話で亡き両親との思い出共有、第5話で初のケンカ、第6話で喫茶店デート、過去の出会い、初夜。これらの出来事を通じ、なつ美は瀧昌に正直な気持ちを伝えられるようになり、瀧昌の表情や口調も柔らかに変化。西香はち氏による原作の展開を踏襲しつつも、芳根京子と本田響矢という生身の人間が演じることで、心情の微妙な変化や、互いを深く思い合う姿がより鮮明に伝わってくる。この実写化には改めて感謝したい。

他の恋愛ドラマとは一線を画すシンプルな構造

本作が他の恋愛ドラマと大きく異なる点は、なつ美が抱える悩みや葛藤がほぼ瀧昌に関する点。序盤は、何を考えているか分からない瀧昌への接し方や海軍の慣習への戸惑い。中盤以降は、海軍の仕事柄なかなか会えないことへの寂しさ、初夜や大晦日の過ごし方に関する悩みなど、彼女の壁は「瀧昌とどのように幸せな生活を築くか」という一点に集約される。芙美子が瀧昌に言い寄ったり、郁子になつ美が嫁いびりされたりといった、他の作品ならありがちな分かりやすい対立構造が一切存在しない。加えて、なつ美の悩みが瀧昌のモノローグを聞けば解決されるケースが多く、視聴者はすれ違う二人の愛らしい姿を「神の視点」から「ムズキュン」と楽しめるのだ。

舞台設定がもたらす独自の葛藤と魅力

そして、この物語のシンプルさを可能にしているのが、舞台となる昭和初期という時代設定だ。現代のような容易な連絡手段がなく、会える時期も限られること、そしていつ何が起こるか分からないという漠然とした不安感は、現代人にとっては新鮮に映る独特の葛藤を生み出している。当時の服装、食事、言葉遣いなど文化描写も知的好奇心を刺激。これにより、展開の起伏が少ないにもかかわらず、高い満足度につながる。

『波うららかに、めおと日和』は、昭和初期という時代背景を巧みに活かし、現代の恋愛ドラマとは異なる形の、シンプルながらも深い人間ドラマを描き出している。芳根京子と本田響矢による丁寧な演技が、原作の魅力を十二分に引き出した素晴らしい実写化だと言えるだろう。

出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/0c9bbba5d6a0a3cb8ca2626e5481c8867b4610ea