新型車「加速抑制装置」義務化決定!ペダル踏み間違い事故対策の切り札か

国土交通省は2024年6月17日、道路運送車両の保安基準を一部改正し、ペダル踏み間違い時加速抑制装置の搭載を新型乗用車に義務付けると発表しました。この義務化は2028年9月1日以降の新型車(輸入車は2029年9月1日)から適用されます。この措置は、日本で社会問題となっているペダル踏み間違いによる痛ましい交通事故を減らすための重要な一歩となります。

近年、特に高齢ドライバーによるペダル踏み間違い事故のニュースをたびたび耳にします。このような事故は年間約6000件発生しており、75歳以上の高齢運転者による死亡事故のうち、約15%がアクセルとブレーキの踏み間違いに起因するという統計があります。これは若年層と比較して約6倍という高い割合であり、対策が急務とされていました。今回義務化される加速抑制装置は、このような事故の解消に向けた切り札となる可能性を秘めています。この技術は、2024年11月には国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)において、日本発の安全技術として国連基準化され、今後の世界標準となることが認められています。

加速抑制装置とは?その機能と事故防止効果

加速抑制装置は、ドライバーが誤ってアクセルを強く踏み込んだ際に、車両前方の障害物を検知し、急な加速を抑制するシステムです。多くの場合、車両に搭載されたカメラやレーダーが障害物を認識し、誤発進による加速をカットしたり、アイドリング程度の速度に抑えたりすることで機能します。重要な点は、この装置はあくまで「加速を抑制する」ものであり、車両を自動停止させるものではないということです。最終的なブレーキ操作はドライバー自身が行う必要があります。

具体的な事故状況を想定すると、コンビニエンスストアなどの駐車場でブレーキと間違えてアクセルを踏み込み、店舗に突っ込んでしまうといった典型的なケースで効果を発揮します。装置が正常に作動すれば、その場での加速が抑えられ、重大な事故の発生を未然に防ぐことが期待されます。

AT車のアクセルとブレーキペダル。義務化される加速抑制装置による安全対策のイメージAT車のアクセルとブレーキペダル。義務化される加速抑制装置による安全対策のイメージ

新制度の詳細:対象車両と性能要件

国土交通省が発表した今回の義務化の対象となるのは、運転者がクラッチ操作を必要としない乗用車(乗車定員10人未満)です。具体的には、AT車やCVT車が該当し、MT車は除外されます。電気自動車も対象に含まれます。これらのAT車には、国際基準である「ペダル踏み間違い時加速抑制装置に係る協定規則」に適合する装置を備えることが義務付けられます。

装置がこの基準に合格するためのテスト要件は明確に規定されています。停止状態からアクセルペダルをフルストロークまで踏み込んだ場合に、障害物の手前1.0mおよび1.5mにおいて、以下のいずれかを満たす必要があります。

  • 障害物に衝突しないこと
  • 障害物との衝突時の速度が8km/hを超えない、かつ、障害物がない状態に比べて30%以上速度が低下していること

ドライバーへの通知と機能解除

新しい加速抑制装置は、ドライバーへの警報機能も義務付けられます。基準では視覚警報が必須とされており、これはメーターパネルへの警告表示などで行われると考えられます。また、機能の解除に関する要件も定められています。装置が一時的に解除されている状態をドライバーに明確に表示すること、そして機能の一時停止後に再び作動可能な状態に戻す(復帰させる)機能を備えている必要があります。

どのような状況で装置は作動するのか

現在、各自動車メーカーが一部車種に標準装備またはオプションとして設定している加速抑制機能は、主に以下のような状況で作動することが想定されています。

  • 前向き駐車をする際、前方の壁や他の車両に近づいている状況で、誤ってアクセルペダルを強く踏み込んだ場合。
  • バック駐車をする際、後方に壁や車両がある状況で、誤ってアクセルペダルを強く踏み込んだ場合。
  • 信号待ちや渋滞中で前方車両がいる状況で、誤ってアクセルペダルを強く踏み込んだ場合。
  • 駐車スペースから後退して出ようとしていたが、シフトを誤って「D」に入れ、前進時に慌ててアクセルを強く踏み込んでしまった場合。

留意点:装置の限界と確認事項

加速抑制装置は非常に有用ですが、万能ではありません。特定の状況下では装置が作動しないケースがあるため、ドライバーはこれを理解しておく必要があります。例えば、ウインカー操作中や急な登坂路での発進・加速時、あるいはブレーキを踏んで停車中の状態から発進する際などは、装置が作動しない場合があります。車両ごとの細かい仕様はメーカーや車種によって異なるため、自身の車の取扱説明書などで機能の詳細や限界を事前に確認することが重要です。安全運転の基本はドライバー自身の正確な認知・判断・操作であり、装置はあくまでその支援機能であることを忘れてはなりません。

今回の加速抑制装置の義務化は、ペダル踏み間違い事故という社会的な課題に対し、技術的な解決策を広く普及させるための重要な一歩です。2028年(輸入車は2029年)からの新型車への搭載義務化により、今後の交通事故件数の減少に大きく貢献することが期待されます。この新しい基準が世界標準となることも、日本の安全技術の高さを証明するとともに、グローバルな交通安全向上に寄与するものです。

参考資料