『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』が描く「ジオン勝利」の世界線:歴史ファンの視点

2025年4月9日から日本テレビ系列で放送が開始された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下、ジークアクス)。1979年放送の初代『機動戦士ガンダム』を基に、大胆な設定改変によって多くのファンに衝撃を与えています。特に、宇宙世紀における一年戦争の結末を覆す展開は、従来のシリーズファンにとって大きな注目点となっています。

『ジークアクス』が描く「IF」の宇宙世紀

初代『機動戦士ガンダム』の物語は、劇中時間の宇宙世紀0079年から始まります。『ジークアクス』も劇場版は0079年からですが、TV本編は0085年からのスタートです。初代の第1話で主人公アムロ・レイが搭乗し、地球連邦軍の快進撃の要因となったRX-78-2ガンダム。この重要な機体が、『ジークアクス』ではシャア・アズナブルによって奪取されるという衝撃的な展開を迎えます。これにより、連邦軍肝入りのモビルスーツ開発計画は大きく狂い、一年戦争のパワーバランスは初代の史実とは異なるものとなりました。

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』におけるRX-78-2ガンダムとシリーズロゴ。ジオンが勝利した一年戦争を描く。『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』におけるRX-78-2ガンダムとシリーズロゴ。ジオンが勝利した一年戦争を描く。

『ジークアクス』の世界線では、ジオン公国が地球連邦に勝利したという前提で物語が進んでいきます。これは、オールドファンにとって極めて刺激的な展開と言えるでしょう。ギレン・ザビの演説にもあるように、ジオンは連邦に比べて国力が1/30以下と圧倒的に不利でした。地球から遠く離れたサイド3を本拠地とするジオンが、まともにぶつかっては本来の史実通り、ジリ貧となりア・バオア・クーで最終防衛線を迎えることになるのが自然な流れです。『ジークアクス』は、そうならなかった場合の宇宙世紀の物語を描いているのです。(※本記事は第11話以前に制作、公開された情報に基づいています)

歴史の「敗者」に惹かれるファン心理と「歴史準拠」の壁

個人的な感想を述べさせていただきますと、筆者は地球連邦よりもジオン公国に愛着を感じるタイプです。これは連邦アンチということではなく、物語の中で敗北する側に感情移入しやすいという性分によるものです。そのため、連邦が分裂してエゥーゴとティターンズが誕生した際には、敵方であるティターンズを応援していました。ライダーや戦隊ヒーローより怪人が、ウルトラマンより怪獣が、源氏より平氏が、そして徳川より豊臣が好き、といった傾向です。

特に日本の戦国時代の敗者の物語は悲惨さゆえに惹きつけられます。負ければ一族郎党が処刑されたり、島流しになることもあります。血で血を洗う日本の勢力争いは、ドラマや小説、映画で頻繁に描かれてきました。しかし、これらの作品群には「歴史準拠」という揺るぎないお約束があります。一部の例外を除き、勝者と敗者の立場を入れ替えることは基本的にありません。NHKの大河ドラマなどで、歴史上敗北する側の魅力的な人物がどれだけ視聴者人気を獲得しても、本来の歴史を覆して負け戦を勝ち戦にすることはまずないのです。これは当たり前のことです。

例として、筆者は徳川よりも豊臣が好きなので、慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いでは、徳川家康に対して西軍の実質的大将を務めた石田三成に強く感情移入します。有力大名を篭絡済みの家康に敵対した時点で三成に後がないことは明らかでしたが、彼には豊臣家臣団としての意地もあったのでしょう。結果、本戦は1日で決着し、三成は敗走後に捕縛され、家康との最後の面会を経て六条河原に露と消えます。この史実は、決して変えてはならない「お約束」なのです。

ガンダムUCシリーズと異なる『ジークアクス』の挑戦

ここでガンダムの話に戻りましょう。これまで多くのガンダム関連作品は、宇宙世紀という時系列の中で起きた出来事を、初代で描かれなかった地域の局地的な戦いや、密かに行われていたガンダム開発計画、中立コロニーでの小競り合いなどをピックアップして描いてきました。

こうした作品は、TVシリーズと一部設定が異なる部分はありましたが、宇宙世紀の大筋の流れには逆らわないという特徴を持っていました。「大筋を変えちゃダメ」という認識が強まるほどに、宇宙世紀の歴史はすっかりおなじみになってしまったからです。しかし、『ジークアクス』は、この認識の根幹から異なります。それが良いか悪いかはさておき、今までシミュレーションゲームなど一部の媒体でしか描かれなかったIFの展開を、まさか地上波アニメで描くとは、という驚きがあります。

これは、まるで大河ドラマで石田三成が関ヶ原の戦いを制してしまうような展開に等しいと言えます。それだけに、宇宙世紀の歴史を深く知るオールドファンであればあるほど、『ジークアクス』が提示するIFの世界線が与えるインパクトは計り知れないものがあるでしょう。

結論

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の最大の特徴は、従来の宇宙世紀作品の枠を超え、ジオン公国が一年戦争に勝利したという大胆な「IFルート」を描いている点にあります。これは、シミュレーションゲームなどのサブ媒体で描かれることはあっても、シリーズのメインストリーム、特に地上波アニメで扱われることは稀でした。

固定された歴史を描くのが原則である「歴史もの」の常識と比較しても、『ジークアクス』の試みは極めて挑戦的であり、その未知の物語は多くのファン、特に歴史のIF展開に興味を惹かれる層にとって、非常に魅力的なコンテンツと言えるでしょう。宇宙世紀の新たな可能性を示す本作は、今後の展開からも目が離せません。

[Source link] (https://news.yahoo.co.jp/articles/2b509c4dca89b5a51688716ffe1e2383e7334488)