台湾半導体専門家、サムスンの複雑経営とガバナンスに苦言 – TSMCとの差はどこに?

台湾の著名な半導体産業専門家である林宏文氏(台湾『今周刊』顧問)が、韓国サムスン電子の現在の事業および支配構造に対し厳しい評価を下した。「サムスンは内部の問題を処理するためにあまりにも多くの資源を消耗している」と述べ、顧客や市場への対応に経営力を集中できていないことが最大の課題だと指摘した。林氏は30年以上にわたり台湾半導体分野を取材してきた記者出身で、『TSMC 世界を動かすヒミツ』の著者としても知られる。同氏は6月19日、ソウル汝矣島で韓国企業ガバナンスフォーラムが主催したセミナーにて見解を表明した。

台湾今周刊の顧問であり半導体産業専門家の林宏文氏。ソウルでのセミナーでサムスン電子の経営構造について語った台湾今周刊の顧問であり半導体産業専門家の林宏文氏。ソウルでのセミナーでサムスン電子の経営構造について語った

サムスンとTSMC、市場評価の大きな隔たり

韓国のサムスン電子と台湾のTSMCは、世界の半導体産業における主要な競争相手だ。サムスン電子は1990年代から2010年代にかけてメモリー半導体市場をリードしてきたが、近年は高帯域幅メモリー(HBM)市場でSKハイニックスなどに後れを取り、相対的に低迷している状況にある。対照的に、TSMCは中央処理装置(CPU)、グラフィック処理装置(GPU)、人工知能(AI)チップといったロジック半導体の需要急増を背景に、2010年代に大きく成長を遂げた。この結果、両社の時価総額には大きな差が生じている。現在のTSMCの時価総額は約1560兆ウォンであるのに対し、サムスン電子は約350兆ウォンと4倍以上の開きがある。過去10年間(2015年以降)の株価上昇率を見ても、TSMCが651%、サムスン電子が111%と、顕著な差が見られる。

複雑な事業構造が招く「内部問題の消耗」

林氏は、サムスン電子の事業構造が過度に複雑であることが、意思決定の遅延や取締役会の独立性不足、ひいては法的リスクを招いていると分析した。特に、「サムスンの問題は構造があまりにも複雑である点だ」と強調した。同社はメモリー事業に加え、ロジックファウンドリー(半導体受託生産)、スマートフォン、テレビなど多数の事業を抱えている。さらに、自社でスマートフォンを生産しているため、自社製チップを使うか外部と協力するかといった判断が曖昧になる場合が多く、その都度内部で衝突が生じやすい構造になっている。このような構造は、外部との競争だけでなく、内部調整においても困難を引き起こすと林氏は主張した。

TSMCの成功要因:選択と集中、顧客中心主義

一方、TSMCの成功要因として、DRAM市場から早期に撤退し、ファウンドリー市場に「選択と集中」を行ったこと、そして顧客中心の事業モデルを構築したことを挙げた。林氏は「TSMCは製造業をサービス業のようにした」と述べ、生産余力がない場合でも、顧客をむしろサムスンに紹介することさえあったと説明した。TSMCは顧客が成功してこそ自社も成功できるモデルであるのに対し、インテルやサムスンのように自社ブランドを持つ企業は、ファウンドリー事業を行う際にも顧客と競合しないよう多くのことを考慮する必要がある点が異なると指摘した。

サムスン支配構造への批判と法的リスク

複雑な支配構造もサムスンの弱点として挙げられた。林氏は、約20年前にTSMC創業者のモリス・チャン会長が台湾国立陽明交通大学での講義で、サムスン電子の株式持ち合い構造を批判していたエピソードを紹介した。チャン会長は当時、「サムスン電子が法的リスクで調査を繰り返し受けるのは、出資構造が複雑であるためだ」とし、「専門経営者がすべての決定を下せば、そのような形の出資や複雑な支配構造はあり得ないはずだ」と述べていたという。林氏は、TSMCも複数の会社に出資しているが、チャン会長は財務的な投資であればほとんど迅速に売却し、戦略的投資の場合でも保有比率は20~30%程度と非常に高かったと説明した。

ファウンドリー事業の分離を提言

米中貿易戦争や自動車市場での中国製電気自動車の台頭といったグローバルな要因にも言及しながら、林氏は「台湾の成功要因は明確だ。委託生産(ファウンドリー)を選択したので、比較的に少ないリスクを負えばよかった」と述べた。これに対し、サムスンのように直接ブランドを運営する企業は、はるかに多くのリスクを負う必要があると指摘。「競争の観点から見ると、サムスンは(ファウンドリー事業を)分離しなければいけない」と助言をもって話を締めくくった。

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