米国のイラン空爆が引き起こす地政学的変動:ロシアの苦境、中国への影響、NATO防衛費増

米国によるイランへの空爆は、世界の政治情勢に複雑な波紋を広げている。特に、ロシア、中国、そして北大西洋条約機構(NATO)といった主要なアクター間の関係に新たな緊張と変化をもたらしており、その地政学的なイラン空爆 影響は多岐にわたる。この軍事行動の背景には、トランプ政権の戦略、ウクライナ戦争によるロシアの余力不足、そして各国の国内政治情勢が絡み合っている。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、この状況下で最も大きな損失を被る可能性があるのは中国だと分析している。イランに石油供給を依存し、米国との対立を深める中国は、イラン情勢の不安定化により多くのものを失うリスクを抱える。これは、対中関税戦争で事実上「判定負け」の評価を受けているトランプ氏にとって、情勢を逆転させるカードとなり得る。また、イランを軍事的に支援するほぼ唯一の国であるロシアが、ウクライナでの戦争によりイラン支援の余力を喪失している点も、米国が空爆に踏み切る際の負担を軽減した要因として挙げられる。欧州外交問題評議会(ECFR)の最近の報告書によると、トランプ氏はこれまでに計22回にわたり軍事力投入の可能性をちらつかせて圧力をかけたが、今回の空爆を除けば実際に米軍を投入した事例は2回にとどまっている。これは、戦争拡大による米国の被害を懸念していたためとされる。

イランはロシアの主要な同盟国の一つだが、ホワイトハウスはイラン空爆直前に行われたプーチン氏との電話会談で、トランプ氏がイラン情勢に関する仲介役を要請したことを明らかにしている。トランプ氏はその後、カナダでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)時には、「もともとG8だったロシアをG7から除外したのは非常に大きな失敗」と述べ、ロシアを擁護する姿勢も見せていた。

ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席、モスクワでの会談ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席、モスクワでの会談

空爆を受けたイランは同日、アッバス・アラグチ外相をロシアに急派した。プーチン大統領との会談を通じて軍事支援を要請する計画だったとみられるが、クレムリン宮からはこの会談に関連した言及はほとんど出ていない。イランの期待とは裏腹に、ロシアはウクライナとの戦争で手一杯の状況であり、武器をイランに支援する余力がないのが実情である。加えて、ウクライナと有利な条件で平和協定を締結するためには、トランプ氏からの強力な支持、あるいは少なくとも黙認が必要となる。また、中東危機に伴う原油価格の上昇は、産油国として原油販売収入を軍備に充てる必要のあるロシアにとって、かえって肯定的な状況になる可能性も指摘されている。NYTは、イランに対するロシアの煮え切らない反応について、「ウクライナ戦争が4年目に入ったプーチン氏の制限された資源と、相反する地政学的優先順位を反映している」とし、「イランに軍事的支援を提供する準備ができているという兆候はまだほとんど見られない」と報じている。

トランプ氏がイラン空爆という大胆な一手に出た背景には、継続的に支持率が下落している国内危機状況を打開する狙いもあった可能性が高い。アイオワ州立大学のマック・シェリー教授は、「政治的にトランプ氏は、関税や移民などの核心政策で期待した成果を挙げられていない状況で、予算削減に関連したいわゆる『大きくて美しい法案』も処理できない危機を迎えていた」と指摘する。シェリー教授は、「イラン空爆は、世論の関心を外部に逸らすと同時に、大統領を中心に米国人を団結させる効果を狙った可能性がある」と分析している。

同時に、24日から開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の直前にイランへの直接空爆を実行したことは、防衛費負担の増額を長年要求してきた同盟国に対し、米国の軍事力とその決断力を見せつける契機になったという評価もある。実際、NATO加盟国はこの日、2035年までにトランプ氏が要求してきた国内総生産(GDP)の5%水準を国防費支出目標ガイドラインとして順守することで合意した。イラン空爆は、中東情勢、ロシアの対外戦略、米国の国内政治、そして欧州の安全保障政策にまで連鎖的な影響を与えている。

出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/619d061895f5584ec7a583970b8e0ace7dd1b022