鉄道に特化した趣味を持つ人々は、その活動内容によって「乗り鉄」や「模型鉄」など、多様なジャンルに細分化されます。その中でも特に、近年トラブルの発生件数が多く、ニュースで取り上げられることが多いのが「撮り鉄」と呼ばれる鉄道ファンです。撮り鉄は、その名の通り、鉄道車両や風景と組み合わせた鉄道写真を撮影することを主たる趣味としています。しかし、一部の撮り鉄による迷惑行為が社会問題となっています。
迷惑行為として批判される撮り鉄のマナー問題
撮り鉄の一部で問題視されているのは、そのマナーの悪さです。特に、貴重な臨時列車が運行される際や、車両の引退に伴うラストラン時には、多くの撮り鉄が駅のホームや沿線の有名撮影地に集まります。その際、一般の通行人や観光客に対して「どけ！」「邪魔だ！」「どけよコラ！」といった罵声を浴びせたり、撮影場所を占拠したりする行為が後を絶ちません。こうした行動はインターネット上でも動画として拡散され、多くの批判を浴びています。「もはや一部の心ない人たちの仕業として片付けられるレベルではない」との指摘もあり、他の鉄道ファンからも「撮り鉄のせいで鉄道趣味全体がおかしく見られる」「一緒にされたくない」といった苦言が呈されています。さらに、安全確保やマナー向上を呼びかける鉄道会社の職員に対して、逆上したり口論になったりするケースが頻繁に発生しているのも、撮り鉄界隈の顕著な特徴と言えるでしょう。
トラブルの根源？撮り鉄独自の「美意識」
では、なぜ撮り鉄ばかりがこのようにトラブルを引き起こしやすいのでしょうか。その大きな要因の一つとして、彼らが追求する鉄道写真には、他の風景写真やアマチュア写真とは異なる独自の「美意識」や譲れないルールが存在することが挙げられます。そして、この独自の価値観をコミュニティ内で強く共有し、重視する傾向が強いのです。撮り鉄が一般人に撮影の邪魔だと感じて罵声を浴びせる背景には、彼らが理想とする「完璧な写真」には、鉄道車両以外の「余計なもの」が写り込んでいない方が良い、という強い美意識があります。風景の中に鉄道車両だけが構図に収まり、美しい写真作品を完成させたいという願望が非常に強いのです。線路沿いの風景に、偶然通りかかった人が写ったり、軽トラックなどの車両が入り込んだりすることも、彼らにとっては写真の価値を下げる「ノイズ」と見なされがちです。
江ノ電の事例に見る「理想」と現実の乖離
この撮り鉄独自の美意識と、公共空間における一般的な価値観が衝突した分かりやすい例が、鎌倉の江ノ電沿線で発生した事例です。特に有名な踏切周辺は観光地としても人気が高く、多くの観光客が行き交います。そこで、線路脇を自転車で通りかかった観光客が、ちょうど通過する江ノ電と一緒に写真に写り込んでしまったことに対し、一部の撮り鉄が激しい罵声を浴びせたという出来事がありました。しかし、その観光客が自転車に乗って手を挙げたポーズで写り込んだ写真は、多くの一般ユーザーやSNS上では「むしろ人がいる方が情感があって良い」「この人がいなければつまらない写真だったかもしれない」と肯定的に評価されました。
江ノ電の人気の踏切で列車を撮影する人々。対照的に、撮り鉄の独自の美意識から見れば、これは「失敗写真」あるいは「台無しにされた写真」と見なされてしまうのです。この埋めがたい価値観の違いが、時には子供が列車の前で楽しそうに記念写真を撮ろうとしただけで「邪魔だ！」と大人げない言葉を浴びせてしまうといった行動につながっていると言えます。
結論として、撮り鉄の一部に見られるマナー違反や迷惑行為の根底には、彼らが追求する独自の鉄道写真における美意識が強く存在し、それが公共の場における一般的な行動規範や他者への配慮と衝突することで、様々なトラブルを引き起こしていると考えられます。鉄道写真という趣味を楽しむ上で、周囲への最大限の配慮と、社会との調和を図ることが喫緊の課題となっています。
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